椿灯夏

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12/23/2024, 12:54:17 PM

お題《プレゼント》


「心のないプレゼントはいらない。そんなもの貰ったって嬉しくない――お前は、違ったんだな」



見抜かれていた。いつものようにデートして、雪化粧のように上手に幻想をかけたはずだったのに。


この男は、油断ならない奴だ。


「クリスマスプレゼント気に入らなかったかな、結構悩んだんだよ? はじめての恋人だから」



嘘を重ねてゆくのは、奇妙な心地良さがある。恋人は飾りで、嘘は極上のトリックだ。すべて完璧だった、今日のこの日を迎えるまでは。


「瞳を見てればわかる。だって俺は――瞳からわかるんだ、お前が見えてない風景が」


鮮やかにテーブルを彩るクリスマスのごちそうも色褪せて、夢は消えてゆく。



恋人だった、確かに。


真実は歪んでいく、知らぬところで、闇を咲かせて。


12/22/2024, 6:03:39 AM

お題《大空》




現実を生きていくためには《剣》が必要だ。


覚悟が切り開く。



現実を生きるためには《物語》が必要だ。


物語は遥か彼方遠くの果てまで飛べて、自分の世界に寄り添ってくれる一番の良き理解者だと思うから。



12/20/2024, 12:36:49 PM

お題《ベルの音》


霧がたちこめる最果ての駅の錆びれたベンチで沈黙する。


美しかった緑の庭園があった駅は、深淵の底にある。


どうしてこの物語を止められなかったのか。


どうして俺は。


俺は――《始まり告げる鐘》なのか。


俺はもうきっと――ここにはいられない。



まもなく扉が現れる。


駅を巡り続け、そこにある幻想を解かなければ。



彼女へと、辿り着くために。


彼女は、永遠にそれを望まないのだろうけど。


12/9/2024, 10:51:49 AM

お題《手を繋いで》


どんな深い孤独の夜の底だって、渇いてゆく砂の楽園星の降る砂漠だって、死人の踊る黄昏の国だって、


あなたとなら越えてゆけるよ。



だってあなたは《運命》だから。

12/1/2024, 9:21:44 AM

お題《泣かないで》



きっかけは何だっただろう。


虚ろな瞳で日常を見ていた。あの子――お絵描きしている間も隣にいて、一緒に同じ世界を夢見たあの子。アクアマリンの海色の毛並みが美しい、私があの夏に拾った小さな子猫は――どこへ消えてしまったのだろう。



どこか遠い国へ旅立ったのだろうか。


――私の隣だけが“世界”じゃない。




それなら。この瞳から降る静かな雨はなんだろう――?


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