お題《プレゼント》
「心のないプレゼントはいらない。そんなもの貰ったって嬉しくない――お前は、違ったんだな」
見抜かれていた。いつものようにデートして、雪化粧のように上手に幻想をかけたはずだったのに。
この男は、油断ならない奴だ。
「クリスマスプレゼント気に入らなかったかな、結構悩んだんだよ? はじめての恋人だから」
嘘を重ねてゆくのは、奇妙な心地良さがある。恋人は飾りで、嘘は極上のトリックだ。すべて完璧だった、今日のこの日を迎えるまでは。
「瞳を見てればわかる。だって俺は――瞳からわかるんだ、お前が見えてない風景が」
鮮やかにテーブルを彩るクリスマスのごちそうも色褪せて、夢は消えてゆく。
恋人だった、確かに。
真実は歪んでいく、知らぬところで、闇を咲かせて。
お題《大空》
現実を生きていくためには《剣》が必要だ。
覚悟が切り開く。
現実を生きるためには《物語》が必要だ。
物語は遥か彼方遠くの果てまで飛べて、自分の世界に寄り添ってくれる一番の良き理解者だと思うから。
お題《ベルの音》
霧がたちこめる最果ての駅の錆びれたベンチで沈黙する。
美しかった緑の庭園があった駅は、深淵の底にある。
どうしてこの物語を止められなかったのか。
どうして俺は。
俺は――《始まり告げる鐘》なのか。
俺はもうきっと――ここにはいられない。
まもなく扉が現れる。
駅を巡り続け、そこにある幻想を解かなければ。
彼女へと、辿り着くために。
彼女は、永遠にそれを望まないのだろうけど。
お題《手を繋いで》
どんな深い孤独の夜の底だって、渇いてゆく砂の楽園星の降る砂漠だって、死人の踊る黄昏の国だって、
あなたとなら越えてゆけるよ。
だってあなたは《運命》だから。
お題《泣かないで》
きっかけは何だっただろう。
虚ろな瞳で日常を見ていた。あの子――お絵描きしている間も隣にいて、一緒に同じ世界を夢見たあの子。アクアマリンの海色の毛並みが美しい、私があの夏に拾った小さな子猫は――どこへ消えてしまったのだろう。
どこか遠い国へ旅立ったのだろうか。
――私の隣だけが“世界”じゃない。
それなら。この瞳から降る静かな雨はなんだろう――?