椿灯夏

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6/11/2023, 11:05:08 AM

お題《街》


空白のスケッチブックに街を描いた。



少女の。少女だけの――空想の街。



孤独な少女が手に入れた、唯一の希望だった。



旅人のお兄ちゃんがくれた、彩が宿る不思議なスケッチブックだ。その他にも不思議なものをたくさん見せてくれた。星を淹れたティーポット、枯れた植物が元気になる水、歌う妖精ドーム、お茶会をひらいてくれるブリキのおもちゃ。






少女が手に入れたのは、生きてゆくための光と大切なきずな。



6/5/2023, 1:34:56 PM

お題《誰にも言えない秘密》




深海の底に沈めた歴史。



永遠に水底で、眠っていてほしい。




6/3/2023, 3:02:41 PM

お題《失恋》



好きじゃなかった。


だから失恋じゃない、失ったわけじゃない。



それでも桜の花が散るように、零れてしまう。



あなたの声とよく合う、いちごみるくみたいな彼女の笑い声。

廊下は淡く色づいて。

 


教室の片隅で震える肩。





好きじゃ、なかった。




6/1/2023, 1:16:49 PM

お題《梅雨》


窓の外を彩る深い青の紫陽花。


しとしと降る雨音。


気怠い身体。


起き上がる気力もなく、ベッドに身を沈める。



傍らに緑茶の湯気揺らぐ。



あと――時間したらごはんを作って、洗濯機を回して。



恋人がプレゼントしてくれた、レモンキャンデーをご褒美に食べよう。




5/29/2023, 11:02:08 AM

お題「ごめんね」



隠し通せぬ嘘。


一度言の葉となった嘘は、解けて、失くなってはくれない。



「兄なんかいない方がいいよ」



友達と馬鹿笑いしながら通話で放った言葉。


この時知らなかったんだ。――扉の向こう側で、泣いていたあなたがいた事を。あの日、あの時。声なき声の涙に気づいてたなら、何か変わったんだろうか。



「ごめんね」と一言だけ書かれたメモ。


兄の部屋に向かった母の泣き叫ぶ悲鳴が、私に“罪人”という刃を突きつける。



壊れた母の壊れた叫び。


それを必死になだめる父。




――神様。私の一言はそんなに“悪”だったんでしょうか? 


夢ならサメテ………。


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