お題《伝えたい》
言葉を綴ることは命を繋ぎ止めること。
物語を綴ることは命の煌めき。
私にとって、この世界はちっともやさしいものじゃないから。
だから物語を幻想化しちゃうのだろうか。
だから物語に夢を見てしまうのだろうか。
たとえ《最果て》に今いたとしても。
誰からも理解されなかったとしても。
――だから《今》の自分がいいんだ。
その先に答えがあるよ。
お題《誰もがみんな》
強くも弱くもない。
剣と盾を持ち、必死で生きている。
強さも
弱さも
自分で磨いてゆくものだから。
お題《花束》
公園を冷たく照らす青い満月。
月下――公園のゴミ箱に詰め込まれた色褪せた花束。
それを無言で見つめる青年。
あんなに愛しい日々を綴り合った恋人は、たった一言だけ言い残して去った。
「好きな人ができたの」
――それがどんなに残酷の言葉か。
――君は知らないから。簡単に告げられるんだろうね。
悲しさも後悔もないかのように、恋人の足取りは軽やかだった。その踏みしめた道には春が咲いているようで、青年とは正反対で。
「もうどうでもいいや。明日世界が壊れたって、僕にはどうでもいい――」
そうぽつり……とつぶやき、青年は歩きだす――その道には冬が、蒼く煌めいていた。
お題《スマイル》
遠く遠く聴こえてくる祭囃子。
朱い金魚の提灯がユラユラと妖しく揺れる。
誘われるようにして、訪れたその祭りは誰も彼もが狐面を被り素顔を隠す。ここではこれが《フツウ》なのだろうか――少女の鮮やかな青い朝顔の着物は、どうしたって目立つ。
うつむき加減に歩いていると、ふいに声をかけられた。
「よくきたね。沙也加」
「私の名前――」
カラカラと風に廻る風車を持った狐面の君がたたずむ。
「この世界を泳いでみない? 沙也加なら遠くへ、行けるよきっと」
一瞬心の水面に、薄荷水のように透きとおった誰かの、その笑顔が浮かぶ。
どんな昏い空の下でも輝き続ける――少女は誰の面影だろうとぼんやりと思う。
お題《どこにも書けないこと》
命を忘れた者は愚者でしかなく。
優しさを忘れた者は空白でしかない。