お題《スマイル》
遠く遠く聴こえてくる祭囃子。
朱い金魚の提灯がユラユラと妖しく揺れる。
誘われるようにして、訪れたその祭りは誰も彼もが狐面を被り素顔を隠す。ここではこれが《フツウ》なのだろうか――少女の鮮やかな青い朝顔の着物は、どうしたって目立つ。
うつむき加減に歩いていると、ふいに声をかけられた。
「よくきたね。沙也加」
「私の名前――」
カラカラと風に廻る風車を持った狐面の君がたたずむ。
「この世界を泳いでみない? 沙也加なら遠くへ、行けるよきっと」
一瞬心の水面に、薄荷水のように透きとおった誰かの、その笑顔が浮かぶ。
どんな昏い空の下でも輝き続ける――少女は誰の面影だろうとぼんやりと思う。
2/8/2023, 11:13:12 AM