お題《1件のLINE》
どんな憂鬱な日々もその笑顔が道標だったよ。
迷った時。
立ち止まった時。
おまえだけが光だった。
いつか夜を越えることができたら、逢いにいくよ。
だから今だけは泣かせて。今だけは……。
この雨がやむまでは――。
部屋の片隅で、ただ泣いた。声の限り。
スマートフォンの画面には笑顔のふたり。
雨音がかき消す、世界が音をたてて崩れてゆく。
お題《朝、目が覚めると泣いていた》
夢だとわかっていた。
夢だと、思いたかった。
朝焼けのようにまぶしい笑顔。
あの日解けてしまった、繋いだ手。
「おそろいだね」
君がくれたダイヤモンドの指輪。
君がくれたテディベアのぬいぐるみ。
君がくれた未来は、もう叶わない。
ありがとうも。
さようならも。
――なにも、つたえられずに。
つたえられないやりきれなさは、今も哀しみの雨となって私の心に染み込むの。
人魚姫にもなれない嘘月の私。
お題《私の当たり前》
言の葉を織って流すこと
記憶の中に眠る日常や忘れられない時間を描く
わたしの想いや物語を誰かに届けたいから
それで、誰かの日常がすこしでも色鮮やかになればいいと想う
誰かの不安や切なさに寄り添うような物語を
想いの言の葉を伝えたくて
わたしは今日も言の葉を織って流す
《何もしなければ 何も変わらない》
《想いを伝える時に伝えなければ 大切な人も時間も待ってはくれないから》
《大丈夫 あなたと一緒にこれからも歩いてゆくから》
読んでくれてありがとう
いつでもあなたのそばに月がありますように
お題《街の明かり》
青い記憶の街。
水底に沈んだ街を照らすのは、青い満月。
歌語りが聴こえる。
吟遊詩人がハープを奏でながら、月を見上げている。
――何を想っているのだろうか。
美しい旋律は空へと消えてゆく。
この街には青い薔薇がたくさんが咲いていたけど、それも遠い昔のこと。
――あんなに美しい薔薇だったのに。
吟遊詩人の瞳に映る月が照らすのは。
今はもう亡き幻影の街。
お題《七夕》
逢えない日々さえも。
君想うたび彩られていく。
色とりどりの浴衣を纏った人々が行き交う。七夕の日は華やかで、凛としてて。現とは思えない美しさで、夜はあふれかえる。
「すー」
「かなちゃん……!」
笑顔で、ひらひら手をふるショートカットの少女に、手をふりかえす。かなとは小学校からの付き合いだ。高校生になった今もこうして、七夕になると近所の夏祭りに出かけるほど仲良しだ。
「すず、また美人になったじゃん。こりゃあ男もほっとかないわ。でも、まだ彼氏いないんでしょ?」
「もーかなちゃんってば言い過ぎだよ。そういうかなちゃんは、塾で出会った他校生の人とどうなの?」
「えー? ふつーふつー。よくけんかするけどね」
思わず笑ってしまう。雑談しながら出店覗いて、りんご飴や綿菓子を買う。それからヨーヨー釣りをやったけど、見事全滅。水色のが欲しかったが、簡単なようで、難しい。
「かなちゃん、次どこ――」
隣にいるはずの、いると思っていたかなの名を呼ぶが誰もいない。おかしい、さっきまで隣にいた……。
思わず後ろをふりかえる――人が、いない。
「……どうなってるの……?」
音もしない。まるで、神隠しに遭ったみたい。
心臓がうるさい。
どうしたら――静寂を破ったのは、青年の声だった。逢った記憶もないのに、すごく懐かしい。そして悲しい。色々な感情が湧き上がってくる。
私――なんで……。
「やっと逢えたね。この日はいつだって雨が降るから――世間では催涙雨(さいるいう)なんて呼ばれてるけど。そんな美しい言葉では語れない、よね」
この感情は。
この感情は。
「……ずっと、逢いたかった」
「俺もだよ。俺だけの――織姫」
ふれた手は。
ふれた唇は。
あなたと紡ぐためにある。