椿灯夏

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7/11/2022, 12:06:11 PM

お題《1件のLINE》



どんな憂鬱な日々もその笑顔が道標だったよ。


迷った時。


立ち止まった時。



おまえだけが光だった。


いつか夜を越えることができたら、逢いにいくよ。



だから今だけは泣かせて。今だけは……。


この雨がやむまでは――。





部屋の片隅で、ただ泣いた。声の限り。


スマートフォンの画面には笑顔のふたり。



雨音がかき消す、世界が音をたてて崩れてゆく。


7/10/2022, 11:27:15 AM

お題《朝、目が覚めると泣いていた》


夢だとわかっていた。


夢だと、思いたかった。



朝焼けのようにまぶしい笑顔。


あの日解けてしまった、繋いだ手。


「おそろいだね」


君がくれたダイヤモンドの指輪。


君がくれたテディベアのぬいぐるみ。


君がくれた未来は、もう叶わない。




ありがとうも。


さようならも。



――なにも、つたえられずに。




つたえられないやりきれなさは、今も哀しみの雨となって私の心に染み込むの。


人魚姫にもなれない嘘月の私。



7/9/2022, 11:40:41 AM

お題《私の当たり前》


言の葉を織って流すこと

記憶の中に眠る日常や忘れられない時間を描く

わたしの想いや物語を誰かに届けたいから

それで、誰かの日常がすこしでも色鮮やかになればいいと想う



誰かの不安や切なさに寄り添うような物語を


想いの言の葉を伝えたくて

わたしは今日も言の葉を織って流す


《何もしなければ 何も変わらない》


《想いを伝える時に伝えなければ 大切な人も時間も待ってはくれないから》


《大丈夫 あなたと一緒にこれからも歩いてゆくから》




読んでくれてありがとう


いつでもあなたのそばに月がありますように


7/8/2022, 11:14:56 AM

お題《街の明かり》


青い記憶の街。


水底に沈んだ街を照らすのは、青い満月。





歌語りが聴こえる。


吟遊詩人がハープを奏でながら、月を見上げている。

――何を想っているのだろうか。

美しい旋律は空へと消えてゆく。


この街には青い薔薇がたくさんが咲いていたけど、それも遠い昔のこと。


――あんなに美しい薔薇だったのに。



吟遊詩人の瞳に映る月が照らすのは。


今はもう亡き幻影の街。




7/7/2022, 11:20:29 AM

お題《七夕》

逢えない日々さえも。


君想うたび彩られていく。



色とりどりの浴衣を纏った人々が行き交う。七夕の日は華やかで、凛としてて。現とは思えない美しさで、夜はあふれかえる。


「すー」

「かなちゃん……!」


笑顔で、ひらひら手をふるショートカットの少女に、手をふりかえす。かなとは小学校からの付き合いだ。高校生になった今もこうして、七夕になると近所の夏祭りに出かけるほど仲良しだ。



「すず、また美人になったじゃん。こりゃあ男もほっとかないわ。でも、まだ彼氏いないんでしょ?」


「もーかなちゃんってば言い過ぎだよ。そういうかなちゃんは、塾で出会った他校生の人とどうなの?」


「えー? ふつーふつー。よくけんかするけどね」



思わず笑ってしまう。雑談しながら出店覗いて、りんご飴や綿菓子を買う。それからヨーヨー釣りをやったけど、見事全滅。水色のが欲しかったが、簡単なようで、難しい。


「かなちゃん、次どこ――」


隣にいるはずの、いると思っていたかなの名を呼ぶが誰もいない。おかしい、さっきまで隣にいた……。


思わず後ろをふりかえる――人が、いない。



「……どうなってるの……?」



音もしない。まるで、神隠しに遭ったみたい。


心臓がうるさい。


どうしたら――静寂を破ったのは、青年の声だった。逢った記憶もないのに、すごく懐かしい。そして悲しい。色々な感情が湧き上がってくる。



私――なんで……。




「やっと逢えたね。この日はいつだって雨が降るから――世間では催涙雨(さいるいう)なんて呼ばれてるけど。そんな美しい言葉では語れない、よね」



この感情は。


この感情は。



「……ずっと、逢いたかった」


「俺もだよ。俺だけの――織姫」




ふれた手は。


ふれた唇は。



あなたと紡ぐためにある。




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