月下の胡蝶

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お題《七夕》

逢えない日々さえも。


君想うたび彩られていく。



色とりどりの浴衣を纏った人々が行き交う。七夕の日は華やかで、凛としてて。現とは思えない美しさで、夜はあふれかえる。


「すー」

「かなちゃん……!」


笑顔で、ひらひら手をふるショートカットの少女に、手をふりかえす。かなとは小学校からの付き合いだ。高校生になった今もこうして、七夕になると近所の夏祭りに出かけるほど仲良しだ。



「すず、また美人になったじゃん。こりゃあ男もほっとかないわ。でも、まだ彼氏いないんでしょ?」


「もーかなちゃんってば言い過ぎだよ。そういうかなちゃんは、塾で出会った他校生の人とどうなの?」


「えー? ふつーふつー。よくけんかするけどね」



思わず笑ってしまう。雑談しながら出店覗いて、りんご飴や綿菓子を買う。それからヨーヨー釣りをやったけど、見事全滅。水色のが欲しかったが、簡単なようで、難しい。


「かなちゃん、次どこ――」


隣にいるはずの、いると思っていたかなの名を呼ぶが誰もいない。おかしい、さっきまで隣にいた……。


思わず後ろをふりかえる――人が、いない。



「……どうなってるの……?」



音もしない。まるで、神隠しに遭ったみたい。


心臓がうるさい。


どうしたら――静寂を破ったのは、青年の声だった。逢った記憶もないのに、すごく懐かしい。そして悲しい。色々な感情が湧き上がってくる。



私――なんで……。




「やっと逢えたね。この日はいつだって雨が降るから――世間では催涙雨(さいるいう)なんて呼ばれてるけど。そんな美しい言葉では語れない、よね」



この感情は。


この感情は。



「……ずっと、逢いたかった」


「俺もだよ。俺だけの――織姫」




ふれた手は。


ふれた唇は。



あなたと紡ぐためにある。




7/7/2022, 11:20:29 AM