ひんやりとした風が草木を揺らし頬を撫で、彼方へ過ぎ去ってゆく。
「なぁなぁ、この村を出たら何がしたい?」
「私ね、商人になりたい!色んなとこを巡って、色んな人に出会って、色んな物を交換するの。そしていっぱいの事を知って皆に伝えたいな」
「ははっ、いいなそれ!俺はな、どんな時でも皆を守れる騎士になりたいんだ。そしたらもう何があったって安心だろ?お前の護衛だってしてやるよ」
一面の芝生で笑い合って。広い空に夢を描いて。お互い叶えようねって指切りをした、そんな爽やかな記憶。
約束、とまでは言えないけれど、確かに私をずっと支え続けているおまじない。きっとこれから先も忘れる事は無いのだろう。
『約束』
秘密を秘密たらしめるのは、自分以外の誰からも見えない所に隠しおく事。
それは、抱えれば抱える程に心を重く蝕んでいく。言わなければ解放されないのに、喉に空気の塊が詰まって言葉になってくれない。しかも、それを繰り返す度に微かな隙間さえも塞がっていく。
嘘も隠し事も大嫌いだ。結局苦しむのは私だから。
『誰も知らない秘密』
「ずっと長く楽しく美しく、終わりも忘れてしまう程の旅を創って行こう」
貴方に手を引かれて飛び立ったあの日から、私達の歩む道は満天の星空の様に煌めいている。
陽の光を一身に浴びて生い茂る草原も、朝露を湛える一面の花畑も。月明かりに照らされる貴方の姿だって、一つ一つ綺麗に大切に心の展覧会に飾ってあるのだ。
誰もが忘れたって私だけは忘れない様に。そんな誰かにまた色彩を、感動を、愛情を伝えられる様に。
そして、もっと知らない景色を味わう為に、手に入れる為に。いつまでもこの旅が続きますように。ずっと旅の途中でありますように。
『旅の途中』
ずっと一緒に居たい人が居る。
貴方の過去を聞き出せないのは、踏み込めないのは。
貴方が躱してしまうから、聞かれる事を嫌がるからという事よりも、私がまだ貴方と離れたくないからの方が大きいんだろう。
ひらひらと舞う花びらのように掴み所のない貴方が、ほんの些細なきっかけで消え去ってしまうのが何よりも恐ろしい。
知らない貴方の姿を抱える私はきっと
貴方にとって『まだ知らない君』
太陽に向かって手を伸ばすと影が落ちる。
陽は落ちると同時に影を伸ばしていく。
そして沈み切れば全てが日陰に覆われる。
けれどまた朝日は昇ってコントラストを描いていく。
それは誰かが何もしなくたって、何かをしたって、変わる事は無い自然の摂理。
だから、もっと自由に生きて良いんだよ。
誰も君を咎める事なんて出来ないんだ。
『日陰』