「何をあげようかな」
明日は貴方の誕生日。何をあげたとしても貴方の喜ぶ顔が浮かんでしまって尚更わからなくなる。贅沢で切実な悩みだ。
目を走らせると白く眩しい程ライトアップされた商品の数々が陳列されている。照らされて初めて輝くなんて、私のようでなんだか落ち着かない。
地に足が着かない様な心地と共に、考えは浮かんでは消えてを繰り返す。
私は暗闇の中でも輝けるような、誰よりも私を照らしている彼にも光を与えてくれるような物を贈りたいのに。
ふと顔を上げると、視界の隅で何かが光ったような気がした。見失わないように駆け寄ると繊細で小さく、それでいてしっかりとしたネクタイピンがキラキラと瞬いていた。確かネクタイピンを贈る意味は、
「貴方を支えます」
『あなたへの贈り物』
『明日に向かって歩く、でも』
どれだけ希望を見出そうとしたって、絶望で覆われて見えなくなってしまう事ばかり。
もう諦めた方が苦しくないのかもしれない。だって幸せを感じる程失う事が怖くなるのだから。期待をする程裏切られた時につく傷が増えていくのだから。
それなのに、全てを捨てる事が出来ないのは。
一度幸福を味わって満たされたからなのかな。
じゃあこれは全部、貴方のせいだね。一回でも私の心に火を灯したならずっと消えないように一緒に居て。
最期の時まで責任取ってそばに居て。
『ただひとりの君へ』
君と別れてから一体どれ程の時間が経ったのか分からない。けれど、もしもまだ僕の事を覚えているのなら。待っていてくれているのなら。
また一緒に笑い合ってもう一度一緒に歩んで行こう。我儘を聞いて貰った分、君の願いを叶えてみせるよ。もう僕達を分かつものは無いから。自由をやっと手に入れたのだから。
両方が会いたいと思った上で離れ離れになるのは避けたいので、ここに今から向かう場所を記しておきます。
この手紙が君の元に届く事を願って。
また君に出会える事を祈って。
確かに広がる小さな私の宇宙。
それは小さくたって無限の可能性を秘めている。
未知を埋める為に、道を進んで行く為に。ずっと抱いてずっと一緒に未来へ歩んでいく。
『手のひらの宇宙』
「ねぇ、次は何処に行きたい?」
端正な顔を崩しても尚美しい彼は、輝かしい笑みで私に聞いてくる。金色のさらりとした髪も相まって本当に眩しくて、見慣れている筈なのに一瞬固まってしまう。そんな私の様子も更に愛おしそうに見つめられている気がしたので、咳払いをして一拍置いてから
「…貴方と一緒なら何処だって楽しい。そんな旅の記憶は宝石のように輝いていて、全ての場所が魅力的に見えてしまうの。だからね、私、何処までも行きたいな」
と言って彼を見つめてみると、今度は笑みを隠しきれないようなほんのり赤みがかかった顔をしていて。それは私だけが見れる特別な貴方のようで、たまらなく愛しい。
「それじゃあ、僕に何処までも何時までも着いてきてくれるかい?」
という言葉と共に彼の差し伸ばされた手を取って、もちろん、と返事をすれば私達はまた次の目的地へと翔けていく。まだ見ぬ景色を二人で見る為に。
宇宙の果てでも二人一緒ならきっと全てが華々しく心に焼き付いて満たされて行くから。
『まだ見ぬ景色』