氷の刃みたいに風が全身に突き刺さる。
涼しくなってきたばかりだ、と思って油断していた。こんなに寒いだなんて。もっとちゃんと厚着すべきだったなぁなんて後悔するけれどもう手遅れだ。
適度に涼しく心地良かった秋は一瞬で、まるで最初から存在して無かったかのように跡形もなく過ぎ去ってしまった。
だけど。
冬は温もりを、貴方の暖かさをより一層感じられるから嫌いじゃない。
吹きゆく風に背中を押されながら、少し足早に歩いていった。
『冬の始まり』
「…お願いだから返事をしてよ」
どうして私を置いていくの?
いつも私の知らない所で私の為に苦心して。貴方の自分を顧みない所がずっとずっと嫌だった。でも貴方の一番大切なのモノは私なんだって思えて嬉しくもあった。
だけど、それとこれとは話が別でしょ?
残される私の事を考えた事ある?
いや、貴方の場合は考えた結果なんでしょうね。
でも、でもこんなのって。あんまりじゃない。
少しくらい私に話してよ。何か出来たかもしれないし何も出来なかったかもしれない。だからといって話す事は無意味じゃないでしょ?だってそうじゃなきゃ納得できないもの。
ねぇ、私怒ってるの、許せないの。だから、目を覚まして応えて。
そうやって勝手に終わらせないでよ。
『終わらせないで』
ねぇ、愛情ってどんな形をしてると思う?
私はね、パズルのピースみたいなモノだと思うの。
人から愛を貰えば自分自身の穴を埋めていける。
でも、全部が全部嵌るって訳じゃない。強く重い愛でピースを多く与えられたとしても、自分のピースまで捧げたとしても、カタチが合わなきゃ嵌らない。
まぁ、平たく言えば相性ってやつかな。恋愛なら二人で互いに足りないモノを補え合えたら幸せを感じるんだろうね。この人なら私の穴を埋めてくれる!って。
逆にどちらも穴だらけだったり、偏ってしまったりすると、不和の原因になってしまう。
現実は恋愛だけじゃなくて友愛だとか親愛だとか、単純じゃないから。もっと複雑にピースのやり取りは行われているし、その上で合う合わないが発生してくるんだけどね。
ちょっと話が逸れたかな。
何を言いたいかっていうと、自分が愛してるからって相手も愛してくれるとは限らない。そんな面倒な愛情の形が私は知りたくなったの。好奇心だよ。
パズルってのは私の一つの考えだから、貴方の考えも聞きたいなぁなんて…。思いついたら教えてね?
ひとまず私の話兼独り言はお終い。
これを聞いてくれた貴方がぽっかりと空いた隙間を埋める様な出会いを得る、もしくはそんな人達とより長く縁が続きますように。
『愛情』
「…冷めない」
額に手をかざすとじわりと熱が移る。
少しずつだけど着実に蝕ばまれていくのに、自分一人じゃ出来るのは身を任す事だけだ。
それならもう抗う事を諦めてしまおう。面倒な事は捨て去って一直線に落ちていこう。
眠りにでも恋にでもどこまでだって。
『微熱』
上も下も右も左も全てが黒く塗り潰されている。
あるのはただ落ちていく感覚だけ。
いつまでも此処で孤独に漂うだけかもしれないのに。
どうして希望を見い出せてしまえるんだろう。無条件に貴方が来てくれると思ってしまうんだろう。
もういっそ呑み込まれてしまった方が楽だろうに。意識なんて手放してしまえば心地良く眠れるだろうに。
私はどうしても貴方を、貴方と過ごした日々を捨てたくないみたい。
貴方が何処にいるのかも生きているのかも、ずっとわかっていないのにね。
この暗闇は。貴方に落ちきってしまった私の運命で、そして向き合うべき私自身なのかな。
『落ちていく』