「今日はね…」
いつものように、何をしたとか、されたとか、どう思ったとか。貴方としたいと思った事も、一点を見つめて話す。希望と哀愁が折り混ざったまま。
記憶や思い出の目映ゆい輝きが薄れていくとしても、風化していくとしても、決して無くなる訳じゃないから。春の日差しのように私の心を暖めて、明るく照らしてくれるのは、変わらないから。例え唯一でも、私が貴方の軌跡になるから。
そして、ずっとずっと、いつまでも待ち続けて。探し続けて、願い続けて。奇跡だって起こしてみせるから。
どんな場所でも、貴方と二人きりでも、あの世でも別の世界でだって。会えるのなら何処でも良い。
だから
『また会いましょう』
タンッ
私に向く銃口から飛び出すモノは、いつだって虚空を貫く。当たったら痛いんだもの。皆避けるわ。
それが当たり前の事で。そして、その後すぐ相手の首が切れちゃうだけ。そんな単純作業に飽きるのも当然よね。
ダンッ
だから、だからね。
ダンダンッ、ダンッ
逃げ道も塞ぐように的確に。加えて素早く撃つ貴方に。恋にも似た感情を抱いちゃってるみたい。ほら、さっきの避けきれずに掠っちゃって血が出てる。こんなの初めて。
世界に火が灯るように、私と貴方を中心にして色づいていく。気が狂いそうな程鮮やかな極彩色で、白黒だったはずの風景は埋め尽くされて。
スリルってこういうものだったのね。楽しさを教えてくれて、思い出させてくれて
「ありがとう」
──そして、おやすみなさい
『スリル』
どうせもう飛べないのなら、この命を賭けても良いと思った。願いは貴方が笑顔で生きていってくれる事だけだったから。
身勝手だと分かっていたけど。それでも、僕の事なんかより貴方自身を大切にして欲しかった。あぁ、この言葉、そっくりそのまま返されちゃいそうだなぁ。
貴方が褒めてくれた空を駈ける翼は、もう折れてしまった。それなのに愛しそうに撫でてくれるから。ずっと忘れないでくれるから。正しさなんてどうでも良くなって、ただひたすらにもっと飛びたいと願ってしまう。
また貴方に触れて、話して笑い合って。綺麗な世界を一緒に生きたいと。
君には敵わないや。例え叶わない願いでもずっとずっと願い続けるよ。
『飛べない翼』
神様、なんて本当に居るのかな
「居るかどうかよりも、拠り所になってくれてる事が大事なんじゃないかなぁ」
そう答えながら月を見上げて、僕は居て欲しいけどねって笑ってこっちを向く貴方と。月見をまた出来たら良いのに。
あの遠い遠い十五夜の日。妙に納得して私も神様に居て欲しいな、なんて思ったんだ。十五夜に貴方がススキを忘れずに、そして普通より多く飾るのは、邪気や災いから神様に守ってもらえると信じていたからなのだろうか。
私よりもお供えしていた彼を守ってよ。神様。
『ススキ』
「僕の事は忘れてね」
ふんわりと私の頭に手を添えて、柔らかい声で笑いながら彼が私に言った、最後の言葉。それを言った瞬間から永遠に彼はこの世界から失われてしまった。私への感謝だとか今までの事とかも色々言われたけど、最後の言葉以前は混乱に塗りつぶされてしまった。
でも、あの瞬間の苦しみを覆い隠す綺麗な表情も暖かな手も鮮明で、これまではもちろんこれからも忘れる事は無いだろう。というか、絶対に忘れてあげないのだ。脳裏に焼き付けた貴方の存在証明を。
『脳裏』