椋 muku

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11/18/2024, 11:40:03 AM

僕が君と過ごした時間。人生の何十分の一にも満たないわずかな時間。その中には何十年、何百年ではきかない想い出が詰まっていた。

君といる時に感じた鼓動の高鳴りを身体が覚えて、知らず知らずのうちに君を求めていた。君が笑うと僕の打つ脈は誰よりも重く深くなっていく。相手に好意を抱くというのは特別初めてという訳ではなかった。それなのに、君といるとすべてが新しく煌めいて見えた。

君が異性を怖がってしまうと僕に打ち明けてくれたことが僕たちの美しい時間の始まりだった。本当はあまり関わりたくなくて、でもあなたとなら…と視線を僕から逸らして呟いた君。瞳に映った空は今まで生きた中で最も美しかったと断言出来るほど僕には眩しく見えた。君との恋仲が始まって僕は浮かれていたんだな。

春も夏も秋も冬も、君はいつでも僕を連れ出した。ウィンドーショッピングが好きだからと街へ出たかと思うと夜のネオン街で雰囲気の漂うバーで乾杯もした。酔った君とのカラオケ。君は覚えているだろうか。僕に背中を向けて歌った𝐼 𝑙𝑜𝑣𝑒 𝑦𝑜𝑢。たった一言の歌詞が何よりも心に刻まれたんだ。振り返って見せた頬が染まった君も綺麗だったよ。

君と身体を重ねた夜。周りの騒音なんて気にならないくらい僕たちにはお互いの鼓動しか聞こえていなかった。口づける度に漂う甘いラベンダーの香り。今では苦くさえ感じる花の香り。あの時の君の誘惑に満ちた表情が少し大人っぽく見えたんだ。

君は僕じゃない誰かを選んだ。最初からそんなつもりはなかったと。確かに君は僕に告げたよね。君の隣にいたのは僕より仲を深めた僕の知らない奴だった。罪深い人だな、その人とはちゃんと目が合っているんだから。君が一度も僕と目を合わせてくれなかったのは初めからお遊びだったからだよね。あなたとならって口説き文句だったんだよね。気づいていたよ、心のどこかで。それでも僕たちの時間は美しかった。僕だって満足した、たくさんの想い出ができたから。それなのにどうして別れを告げた君が泣くの?君が泣いたら僕たちの最後が美しくなくなってしまうじゃないか。あなたと過ごすうちに好きになってしまったの、でも私とじゃ幸せになれないから…と涙ながらに伝える君に僕は最後の口づけをした。他の奴ができない君の人生で一番深い美しい口づけを。あの日が君と目が合った最初で最後の日。幸せになるんだよ、それだけ伝えて僕たちの美しい関係に終わりを告げたんだ。

題材「たくさんの想い出」

11/17/2024, 12:13:59 PM

明日、雪が降るらしい。もう夏の余韻を残した秋風は冷気を纏った木枯らしへと変わってしまった。吐いた息が白くなるほど冬はもうすぐそこまで来ている。

冬になったらこの恋を終わらせようと決めている。あなたとの出会いはもう随分前のことでお互いの趣味がきっかけだった。季節が春から夏へ移り変わるように仲が深まるのもそう長くはかからなかった。あまりくさい台詞はいう柄じゃないが向日葵のように明るく太陽のように温かいあなたのすべてに知らぬ間に惹かれていたのだと思う。蕾が花を咲かせるようにあなたへ抱いた友情が好意へ変わるのも一瞬の出来事だった。仲が深まるほど抱くものが重くなってゆく。しかし、仲が深まるほどあなたは枯れゆく花のように切なく雪のように冷たい人へと変わってしまった。それでも想いは募り続ける、底知れぬように。ふとあなたを温めたいと願ってしまった。ただそれだけの事だった。その願いがあなたとの関係を曖昧に濁らせた。手を伸ばせば届くはずなのに遠い距離がもどかしい。触れているのに増してゆく冷たさが心痛い。魅力的なあなたには茨が付き纏う。傷つけられても守りたいと思ってしまうのはあなたに恋をしていたから。確かにあなたに「恋」していたから。曖昧な関係が冷めるのは友情が好意へ変わるのと同じで一瞬の出来事だった。あなたがこれ以上傷つけたくないと言い放った。涙さえも雪解けのように美しい。移ろいのあるあなたを手放したくはない。それでも離れるしかなかった。最初から想いは募るどころか解け流れ消えてしまう無意味な感情だったのだから。

この冬、あなたへの「愛」を残したままこの恋に終止符を打つことだろう。想いが芽吹く、春が来ることを願って。

題材「冬になったら」

11/17/2024, 7:39:23 AM

私の愛犬も母方のおじいちゃんも亡くなるのはあっという間だった。

小学5年生のとき、初めて何かを亡くす出来事と出会った。それが愛犬の死だった。真っ赤に目を腫らせて学校に行ったこと、よく覚えてる。絶対に人を噛まず、小さい私のこともしっかり聞いてくれる子で私の一番の親友であり大事な家族であった。原因は糖尿病だろうとされた。朝早くに亡くなっていたのを父が発見して私たちは飛び起きた。ずっと一緒にいようねって毎日愛犬に声をかけていたのに。1人にされたような喪失感が大きかった。愛犬は火葬されて共同墓地に埋められたそうだ。新たに犬を飼ってもやっぱりどこか寂しいんだ。

母方のおじいちゃんがこの世を去ったのは今年の10月。これもまた私にとって初めて身内を亡くした経験だった。おじいちゃんは今年から少し体調を崩して入院していて私は何度も暇があれば面会に行っていた。病状は改善されて顔色も良くなった。行く回数を重ねるほどおじいちゃんも私とたくさん話してくれた。でもその時がくるのはあっという間だった。誤嚥性肺炎を起こしたおじいちゃんは酸素マスクをつけ苦しそうな姿になってしまった。急なことだということもあったしあまりにも苦しそうで話すと涙がこぼれそうだった。泣かないように抑えて話があまりできずに帰ってしまったこと、今でも後悔している。その3日後、容態が急変したと病院から電話がありその1時間後に逝ってしまった。おじさんが行った時にはもう息はしていなかったと。母が行った時にはもう既に亡くなっていたと。私はおじいちゃんの最期を看取ることは出来なかった。最期になった記憶も後悔そのものだった。その後、火葬、お通夜、葬式が執り行われた。何をしても今でもおじいちゃんの死を受け入れられない。今でもおじいちゃんの最期の記憶、元気だった記憶、事ある毎に思い出してしまう。失ってしまった空間が埋まることは決してなくて、立ち直れずにいる。私の頭から離れない、人が焼けたあとの嫌なにおいが私の後悔を責め立てるように私を苦しめている。

愛犬もおじいちゃんもはなればなれ。それでも残された私は生きなければならない。心は繋がってるとかよくいうけど、実際そんなこと実感なんてできない。死後の世界も存在しているのかわからずもう会えるかどうかもわからない。それでも私はこの命が尽きるまで生きなければならないのだろう。