この世に神様なんて居ないと思ってた。
だって祈ったって願いを叶えてなんてくれないし。
もし見てたら、こんなアホみたいな人生に少しくらい救いをくれると思うんだけど。
──なんて思ってたら、だ。
ある日寝てたら急にベッドの傍に知らない人が立っていた。
女の人にも見えるし、男の人にも見えるし、中性的な人。
「ああ、ようやく迎えに来れた」
にこり、と笑ってその人はそう言った。
なんだなんだ。迎えとはなんだ。
早くしにたいとかは願ってない。
早くしんでくれとは願ったけど。
目を見開いて居ると、その人は笑みを絶やさずこう言った。
「私、神様なんです。あなたの願いを叶えに来ました」
いや、知らない。なんだ。何の話だ。
呆気に取られていると、その人は不思議そうな顔をして首を横に傾ける。
「あなたが願ったんですよ?アホみたいな人生に少しくらい救いが欲しいなんて」
だから、救いに来ました。
なんて、笑う顔は無邪気に笑う子供のようで。
でも、その笑顔を見て思わず全身に鳥肌が立つ。
嗚呼、アホらしい。呆気ない人生だった。
笑顔を絶やさない『神様』の顔が霞んでゆく。
意識も遠のいて、ゆっくりとまぶたを閉じる。
「さ、幸せな人生を送りましょうね」
子供に言い聞かせるような、心地の良い優しい声。
その声が紡いだ言葉が、最期に聞いた言葉だった。
「神様が舞い降りてきて、こう言った。/20240727」
ご自愛ください、長くないんですから。
お医者さまにそう言われて、思わず目を点にする。
どうやら私の寿命は長くは無いらしい。
思えば、自分のために生きたことはないと思う。
小さい時は親のために、大きくなっては他人のために。
なんとなく、自分以外の人のために生きてきたように思う。
けれど、それでいいんだと思う。
みんな、みんな、笑ってくれていたから。
心配そうなお医者さまの顔を見ながら、私は笑う。
「それでも良いです、私、誰かのために生きられるなら」
誰かのために、私の寿命を全う出来るのであれば。
それが、私の本望なのだから。
「誰かのためになるならば/20240726」
きい、と鳥籠の扉が開いた。
そっと顔を出して本当に開いていることを確認して、扉を開けてくれた人を見上げる。
その人はにこりと優しそうな笑みを浮かべて、四角く切り取られた空の向こうを指さした。
「もう飛べるでしょ、お行きなさいな」
確かに痛みはどこもない。飛ぼうと思えば飛べるのだけど。
一向に飛ばないのを見て、その人は不思議そうに首を横に傾ける。
それから呆れた様に笑いながら、そっと鳥かごの扉を閉めた。
「なら、これからも一緒に暮らそうか。可愛い小鳥さん」
応えるように鳴いてみせると、嬉しそうにその人は笑ってくれて。
空をまた飛びたいとも思ったけれど。
今は、鳥かごの中でこの人の笑顔を見ながら暮らしたいと思ったんだ。
「鳥かご/20240725」