目の前にはいつもボクをいじめてくるガキ大将とその取り巻き三人。
今日も何かされるのではないかとビクビクする。
ニヤニヤとこちらを見ながらガキ大将は意味もなくボクに蹴りを入れた。
「!?」
ボクはただのストレス発散道具だった。
しかし、それも今日まで。明日には引っ越す。隣町だからすぐに会ってしまう距離だけど幾分か心に余裕ができた。
だから。
「あ、あのさ」
いつもはされるがままのボクが声を上げるのに驚いたのかガキ大将たちは少し怯んだようだった。しかしそれもすぐに無くなる。
「あ?なんだよ」
ドスを効かせた声で威嚇するようにこちらを見る。
ドクドクと心臓が鳴る。大きく鼓動しすぎて痛いくらいだ。
それでもボクは勇気を出した。周りから見てみれば小さな勇気かもしれない。でもボクからしたら大きな、大きな勇気。
「君たち、さっさと地獄に堕ちろ」
そう言った後何か反撃される前に反対方向へダッシュする。走っているだけの汗じゃない。頬も熱い。心臓が痛い。
それでも、ボクは勇気を出した。今までのボクからしたら大進歩だ。
さぁ明日から心機一転、新しい街で楽しい日々を送ろう。
ーーーーーー
小さな勇気
「う、わぁぁぁっ!!???」
目の前にいるのは鬼の形相の妻。
そんな妻に帰って早々押し倒された。
そして、先ほどの叫び。
え、なになに?誘われてるの?ボク。
だが、そんな雰囲気ではない。
「え、と、何?どしたの…?」
「……た…せん…」
ボソリと呟いた妻の言葉を全ては拾えなかった。
クエスチョンマークが頭を支配する。
無言でいると、妻は鬼の形相から閻魔様の形相と言っていいほどに激しく変わった。
「靴下を!しっかりと!洗濯機に入れてって!!言ったでしょー!!!」
「すみません」
思い当たりがありすぎてすぐに謝罪の言葉が出てきた。
ーーーーーー
わぁ!
「君のためならこの命を捨てることを躊躇わないよ」
貴方はそう言ったけれど。
「こ、こんな奴の命なんてどうでもいい!俺はまだ死にたくない……っ」
私が悪党に攫われてしまったとき助けに来てくれた貴方は開口一番でそう言った。
その時に分かったの。
あぁ、あれは優しい嘘だったんだって。
だから私は覚悟を決め、静かに言った。
「…この者を抹殺なさい」
愛していたわ。
さようなら。
ーーーーーー
やさしい嘘
「おいこらさっさと瞳閉じろ!」
「ちょ、今、風呂入ろうとしてんだけど!!」
勝気で男勝りな彼女は僕が帰ってきて風呂に入ろうとしている時に脱衣所にノックもせずにズカズカと入ってきた。
「はぁ!?そっちがおかえりのキスしてくれなかったのが悪いんだろ!」
あぁ、なるほど。おかえりのキスをしなかったのが彼女の癇に障ったのか。
だって仕方ない。今日、飲み会でお酒くさいままキスをしたくなかった。彼女に嫌な思いはさせたくない。
「おら、風呂入る前に…んんっ」
最後まで言い切る前に彼女の口を自分の口で塞ぐ。
すると彼女は途端に顔を真っ赤にする。
そっちから言い出したくせに…。そういうところも可愛いのだけど。
全く、瞳を閉じてなんて言ってきたくせにそっちは閉じないなんて。
可愛いなぁ…
ーーーーーー
瞳を閉じて
おぎゃあおぎゃあと分娩室に大きな産声が響く。
周りのみんなは大粒の涙を流している。
ボクが産まれてきたこと。
それはきっとーーーーーー…
ボクからあなたへの…いや、
あなたたちへの贈り物なんだ。
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あなたへの贈り物