外国の小説で、「賢者の贈り物」というのがあって、わたしはこの物語が好きだ。
妻は旦那のために、綺麗な長い髪を旦那の懐中時計に付けるチェーンに換えて
旦那は妻のために、大切な金の懐中時計を鼈甲の櫛に換える
お互いが相手のことを思ってとった行動で、プレゼントは使ってもらえなくなったけれど
それはそれで、とてもいい思い出になるなぁと思う。
自分のことを優先して、相手が自分の都合のいいように立ち回ってくれるだろう
なんて思って日々を過ごしていたら
この物語とは真逆な結末になって
もしかしたら一生後悔するかもしれない
…賢者でありたいなぁ。
◇すれ違い◇
猛暑の季節が過ぎ去り
台風が来たり来なかったりする合間に
涼しい風と共に現れる快晴
ああ、もう夏は本当に終わったのねと
突きつけられる瞬間
いろんな喜怒哀楽の思い出が
追憶の引き出しからぶわっと出てくる
それは、泣きたいほど戻りたい愛しい場面や
死にたいほど心が大変だった場面、
無音映画のなかで話しかけてくるあなたの
本当はなにを思っていたのかを
わたしは
なにをしてあげられてたんだろうかと
あれこれ考える始まりになる
どんなに想い馳せたって
変わることのない過去を 愛でて 責めて
そんな沈黙の追憶を抱えながら 今年も
残り少なくなった2024年の冬支度をする
◇秋晴れ◇
ふわっと 後ろから
落ちるような感覚になるから
上りの階段は ちょっと怖い
みんな、踵を浮かせてずんずん上れるよね
わたしは階段の断面にベタ付けじゃないと
手すりにもちゃんと掴まってないと
本当に落ちそうになるのに…
体幹とか筋力とかの問題じゃないと思う
小さい頃から 階段は苦手
背中にアザがあるから
前世は 背後から弓矢に射抜かれて
階段から落ちたに違いないのだ
と、本気で思ってる
◇落下◇
◇あいまいな空◇
本日、晴天も晴天。なんなら夏日の地域もあるなか、わたしはというと片付けきれてない肌触りの良いこたつ布団に包まって冷房とのコンボを貪っていた。
先月の今日はまだ朝晩が寒くて、日当たりの悪いこの家は曇りだと薄い長袖では過ごせず厚手のものに着替えるくらいで、まだ出張から帰ってこない旦那を待ちながら、終わり支度をしている愛娘の仕草ひとつひとつに注視しては答えがわからず、在宅の仕事中も仕事ほっぽり出したいくらいに気も漫ろだった。
明日が月命日だから、お花を買ってこなくちゃと思うが布団から出られなかった。
母方の実家も片付けに行かなくちゃ、と思うが伯母に連絡する気になれなかった。
人生においての区切り事に毎度わたしはスムーズな切り替えができないでいた。
前に進めば、出来事は完全に過去になってしまうから、先延ばしにしたいんだと思う。
ではずっと悲しみの中にいたいのか。
悲しみを受け入れ、乗り越え、楽しかった日々ばかりを思う日常を望んではいる。
でもね、わたしは知っている。悲しみは時間が経てば和らいでくることを。どんなに悲しくて空虚でも日常を取り戻せることを。こんなにも、簡単に、愛する人との終焉の日々を忘れてしまう自分がいることを。
現実逃避をしていると旦那が帰ってきた。彼の声で現実に舞い戻る。晩ご飯なんにしようか。あ、お花買いに行きたいの。あそこでお惣菜も買ってこよう。支度?これで行くよ。うそうそ、着替えるから待ってて。
食卓で骨付きのフライドチキンを食べていると、どこまで食べれるかが話題に上がった。
彼は軟骨も食べるので残る骨は綺麗なものである。対するわたしはというと、子供の頃よりは噛んで食べるようにはなったが硬い軟骨はハードルが高い。
「わたし、子供の頃上手に食べれなくてさ、衣のおいしいとこだけ食べてお母さんにあげては嫌がられてたんだよね」
「ふーん」
「まぁ我が子の食べさしとはいえ、食べたくないよね。食べれる?」
「食べれるよ、それも食べてやろうか?」
「え、わたしの食べさし、食べれるの?」
「食べれるよ」
「まじ…え、家族のは食べれるってこと?」
「んー、いや、無理。愛する妻のだからいけるって感じ?」
ほぉー…。
旦那の中でわたしは、こんなわたしでも特別らしい。大事にしなさいよ、と母に言われたことを思い出した。
我が家で1匹になってしまった黒猫は、1匹になった途端に欠かさず添い寝をしてくれるようになった。というか、枕ごとわたしのスペースを占領している。
遊び相手がいなくなって寂しいのかな。家族構成が変わっちゃったんだもんね、この子の心のケアも大切にしなくちゃいけないな。
散っていくもの、変わらずそばにあるもの、守るべきもの、相変わらず大切なもの。
色んな気持ちを抱きしめて今日は眠りたいと思う。互いに慰め合いながら寄り添いあって。(物理的に)
◇きょうの心模様◇