私はどれだけの時間、落ち続けているのだろう、
どこまでも止まらずに落ちている。
地に足のつかない浮遊感。
今どこにいるかも分からない暗闇。
微睡んだような視界の中、ただいつまでもおちていく。
前も後ろも分からなくなって、すべてが絡まって、
光も暗闇もぜんぶ混ざって、
感情も理性もぜんぶぜんぶ混濁して、
自他が混ざり合いそうになった頃、
ぶつかった。
地面、じゃない。
水面、?でもない。
もっと温かい。いや、暖かい?
私の全身を呑み込むあたたかさに触れた。
そっと抱きとめた君を見た。
その眼差しを見た、温もりを見た。
君を感じて、君に触れた。
私は泣いた。
そんな叶うことの無い、夢を見た。
それは、夢だったんだ。
「こんな夢を見た」
タイムマシーンに乗って、きみのいた世界にいこう。
タイムマシーンに乗って、きみに会おう。
ロストタイムに思いを馳せて、
もういないきみのことを思おう。
過去を見るなというけれど、
きみの時間は戻らない。
未来を見ろというけれど、
ぼくの未来にきみはいない。
だから、きみのいる世界を瞼の裏に描こう。
心をタイムマシーンに乗せて、瞼の裏の世界にいこう。
そうしてまた夢を見るんだ。
「タイムマシーンに乗って、君に再び会う夢を」
「タイムマシーン」
今日みたいに、背骨が震えるような寒い夜は、
貴方に会いたくなる。
貴方は、夏が良く似合う人だった。
真昼の日差しのような熱い心を持っていて、
太陽のような温かい優しさで、よく人を笑顔にして、
よく笑う人だった。
もしかしたらわたしは、
思っていた以上に貴方のことが好きだったのかもしれない。
貴方の太陽のような温もりが感じられなくなってから、
骨から凍えるような冬の寒さが、
以前より身にこたえる。
寂しいのだろうか。
もうかけないと決めていたのに、結局寂しくなって、
また今日もかけてしまう、貴方の電話番号。
「⋯もしもし、今時間いいですか?
⋯⋯⋯あの、貴方に会いたくて──」
「君に会いたくて」
僕は、好きな子と交換日記をしていた。
その子には、僕じゃない好きな人がいた。
その子を初めて見たのは、9ヶ月程前だった。
4月、未だ少し肌寒い春の日のことだ。
高校の入学式に、その子は現れた。
周りとは少し違う雰囲気を持った彼女に、
僕の目は釘付けになった。
嫋やかな、肩までの長さに切りそろえられた
真っ直ぐな緑の黒髪。
若干の憂いを帯びたような、
宇宙のように黒い、大きな瞳。
柔らかそうな、でも血色は決して良いとも言えない、
少し厚めの唇。
低めの背。
綺麗だった。一目惚れって、こういうものなんだとわかった。
月日が経つ。彼女とは同じ部活動になった。
とても優しい人柄の持ち主だった。
夏、茹だるような暑い日。
僕らは交換日記を始めた。僕がやりたいと言ったからだ。
彼女は了承した。毎日が楽しかった。明日は何を書こう、なんて返ってくるかな、なんて、柄にもなく浮ついていた自分がいた。しかしある日、彼女が書いたページに、「好きな人ができました」という1文があった。
僕の心からは、空気を抜かれた風船のように力が抜けた。
それから毎日、憂鬱だった。
それからまた少し経ち、年が明けて少しした頃。
僕は彼女に「交換日記、やめませんか」と告げた。
彼女は「はい、やめましょう」と言った。
悲しかった。こんなにあっさり終わってしまうのかと。
彼女との繋がりが途絶えた気がした。
僕は、後悔している。
彼女との交換日記をやめたことを、認めたくない自分がまだ
何処かに居る。
それを表すように、僕の机の上には未だ交換日記が載っている。
誰も開くことの無い、誰も書くことの無い、閉じられた日記が。
「閉じられた日記」
貴方の眼を見つめる。
深い海を融かしたような瞳。
暗くて、底が見えなくて、どこか温かい。
でも優しさをあまり含まない。
静かで、くろくて、ふかい。
吸い込まれそうな貴方の眼に、自分は恋をした。
いや、
海のように全てを呑み込みそうなあなたに、
美しい、あなたに、
恋をした。
「美しい」