僕は、好きな子と交換日記をしていた。
その子には、僕じゃない好きな人がいた。
その子を初めて見たのは、9ヶ月程前だった。
4月、未だ少し肌寒い春の日のことだ。
高校の入学式に、その子は現れた。
周りとは少し違う雰囲気を持った彼女に、
僕の目は釘付けになった。
嫋やかな、肩までの長さに切りそろえられた
真っ直ぐな緑の黒髪。
若干の憂いを帯びたような、
宇宙のように黒い、大きな瞳。
柔らかそうな、でも血色は決して良いとも言えない、
少し厚めの唇。
低めの背。
綺麗だった。一目惚れって、こういうものなんだとわかった。
月日が経つ。彼女とは同じ部活動になった。
とても優しい人柄の持ち主だった。
夏、茹だるような暑い日。
僕らは交換日記を始めた。僕がやりたいと言ったからだ。
彼女は了承した。毎日が楽しかった。明日は何を書こう、なんて返ってくるかな、なんて、柄にもなく浮ついていた自分がいた。しかしある日、彼女が書いたページに、「好きな人ができました」という1文があった。
僕の心からは、空気を抜かれた風船のように力が抜けた。
それから毎日、憂鬱だった。
それからまた少し経ち、年が明けて少しした頃。
僕は彼女に「交換日記、やめませんか」と告げた。
彼女は「はい、やめましょう」と言った。
悲しかった。こんなにあっさり終わってしまうのかと。
彼女との繋がりが途絶えた気がした。
僕は、後悔している。
彼女との交換日記をやめたことを、認めたくない自分がまだ
何処かに居る。
それを表すように、僕の机の上には未だ交換日記が載っている。
誰も開くことの無い、誰も書くことの無い、閉じられた日記が。
「閉じられた日記」
1/18/2024, 2:28:04 PM