夏の気配
暑い。暑すぎる。まだ6月だぞ?春はどこに行ったんだ。
6月の初め、気温は30度を超えていた。高校生活、初めての夏。すでに億劫となっている登校中、春樹はそんな事を考えていた。
「高校生になれば、青春できると思ってたんだがな」
ポツリと呟いた春樹は、期待していた高校生活とは裏腹に、変わり映えのない日々を送っていた。
それなりに友達を作って、それなりに彼女もできて、それなりの地位を確立して、それなりに楽しくて、そんな高校生活は、もうどこにもなかった。
「まだ中学の友達としか連んでねえよ…やっぱ部活にでも入るべきだったか…」
遅すぎる後悔と共に、学校へと向かっていく足には、まるでやる気が感じられない。
もうサボっちまおうかな
そんな考えも浮かび始めていた。
ドンッ
後ろから誰かがぶつかってきて、そのまま走り去ろうとする。
「なにすんだよ!」
その声は、発することなく消えていった。
「ごめんなさい!」
走り去っていく彼女に目を奪われる。
夏の気配がする。高校生活はまだ始まったばかりだ。
星が溢れる
学校の屋上で、空を眺めてみる。街灯のせいか、あまり星が見えない。
「残念だな。最後は星を見て終わろうと思ったのに。」
俺、澤谷は、吐き捨てるようにそう呟いた。
「最後?君は、自殺をするつもりなの?」
となりから声が聞こえる。誰もいるはずがないのに。そう思って、声のするほう見てみる。やっぱり、誰もいなかった。幻聴が聞こえるようになったのかとも思ったが、どうせ死ぬんだからどうでもいいかとも思い、幻聴に答えてみる。
「あぁ、そうだよ。俺は死ぬんだ。ここから飛び降りてな。」
「なんで?怖くはないの?」
幻聴がさらに質問をしてくる。
「怖い?怖くはないさ。どうせ生きててもいいことなんてないし、どうでもいいんだ。」
「いいことならあるよ。空を見上げてごらん。」
「空ならさっきも見たさ。何も見えなかったんだよ。」
そう答えながら、空を見上げる。すると、遠くの方で、星がキランと輝いた。思わず感嘆の声を上げる。
「綺麗でしょ?」
幻聴が言う。それに合わせて、星がまた、輝いた。
「確かにな。でも、それになんの関係が・・・」
流れ星が見えた。それもひとつではなく、たくさん。
「綺麗でしょ?」
幻聴が言う。まるで、そうなることをわかっていたように。
「お前は、星なのか?」
その問いには答えずに、幻聴は続ける。
「これは、流星群と言うんだ。毎年、この時期に起こ・・・って、聞いてる?」
俺は、流星群に目を奪われていた。
数時間が経ち、やっと目を離した俺に、幻聴は問う。
「まだ死にたいと思うかい?」
「いや・・・もう大丈夫だ。」
俺は答える。
「よかった。これで僕の役目は終わりだ。じゃあね。」
空では星が輝いていた。