メガネ

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6/29/2025, 1:31:36 AM

夏の気配

 暑い。暑すぎる。まだ6月だぞ?春はどこに行ったんだ。
 6月の初め、気温は30度を超えていた。高校生活、初めての夏。すでに億劫となっている登校中、春樹はそんな事を考えていた。
 「高校生になれば、青春できると思ってたんだがな」
 ポツリと呟いた春樹は、期待していた高校生活とは裏腹に、変わり映えのない日々を送っていた。
 それなりに友達を作って、それなりに彼女もできて、それなりの地位を確立して、それなりに楽しくて、そんな高校生活は、もうどこにもなかった。
 「まだ中学の友達としか連んでねえよ…やっぱ部活にでも入るべきだったか…」
 遅すぎる後悔と共に、学校へと向かっていく足には、まるでやる気が感じられない。
 もうサボっちまおうかな
そんな考えも浮かび始めていた。
 ドンッ
後ろから誰かがぶつかってきて、そのまま走り去ろうとする。
「なにすんだよ!」
その声は、発することなく消えていった。
「ごめんなさい!」
走り去っていく彼女に目を奪われる。

 夏の気配がする。高校生活はまだ始まったばかりだ。


 
 

3/16/2024, 8:22:10 AM

   星が溢れる

 学校の屋上で、空を眺めてみる。街灯のせいか、あまり星が見えない。
 「残念だな。最後は星を見て終わろうと思ったのに。」
 俺、澤谷は、吐き捨てるようにそう呟いた。
 「最後?君は、自殺をするつもりなの?」
 となりから声が聞こえる。誰もいるはずがないのに。そう思って、声のするほう見てみる。やっぱり、誰もいなかった。幻聴が聞こえるようになったのかとも思ったが、どうせ死ぬんだからどうでもいいかとも思い、幻聴に答えてみる。
 「あぁ、そうだよ。俺は死ぬんだ。ここから飛び降りてな。」
 「なんで?怖くはないの?」
 幻聴がさらに質問をしてくる。
 「怖い?怖くはないさ。どうせ生きててもいいことなんてないし、どうでもいいんだ。」
 「いいことならあるよ。空を見上げてごらん。」
 「空ならさっきも見たさ。何も見えなかったんだよ。」
 そう答えながら、空を見上げる。すると、遠くの方で、星がキランと輝いた。思わず感嘆の声を上げる。
 「綺麗でしょ?」
 幻聴が言う。それに合わせて、星がまた、輝いた。
 「確かにな。でも、それになんの関係が・・・」
 流れ星が見えた。それもひとつではなく、たくさん。
 「綺麗でしょ?」
 幻聴が言う。まるで、そうなることをわかっていたように。
 「お前は、星なのか?」
 その問いには答えずに、幻聴は続ける。
 「これは、流星群と言うんだ。毎年、この時期に起こ・・・って、聞いてる?」
 俺は、流星群に目を奪われていた。

 数時間が経ち、やっと目を離した俺に、幻聴は問う。
 「まだ死にたいと思うかい?」
 「いや・・・もう大丈夫だ。」
 俺は答える。
 「よかった。これで僕の役目は終わりだ。じゃあね。」
 空では星が輝いていた。