はる

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   星が溢れる

 学校の屋上で、空を眺めてみる。街灯のせいか、あまり星が見えない。
 「残念だな。最後は星を見て終わろうと思ったのに。」
 俺、澤谷は、吐き捨てるようにそう呟いた。
 「最後?君は、自殺をするつもりなの?」
 となりから声が聞こえる。誰もいるはずがないのに。そう思って、声のするほう見てみる。やっぱり、誰もいなかった。幻聴が聞こえるようになったのかとも思ったが、どうせ死ぬんだからどうでもいいかとも思い、幻聴に答えてみる。
 「あぁ、そうだよ。俺は死ぬんだ。ここから飛び降りてな。」
 「なんで?怖くはないの?」
 幻聴がさらに質問をしてくる。
 「怖い?怖くはないさ。どうせ生きててもいいことなんてないし、どうでもいいんだ。」
 「いいことならあるよ。空を見上げてごらん。」
 「空ならさっきも見たさ。何も見えなかったんだよ。」
 そう答えながら、空を見上げる。すると、遠くの方で、星がキランと輝いた。思わず感嘆の声を上げる。
 「綺麗でしょ?」
 幻聴が言う。それに合わせて、星がまた、輝いた。
 「確かにな。でも、それになんの関係が・・・」
 流れ星が見えた。それもひとつではなく、たくさん。
 「綺麗でしょ?」
 幻聴が言う。まるで、そうなることをわかっていたように。
 「お前は、星なのか?」
 その問いには答えずに、幻聴は続ける。
 「これは、流星群と言うんだ。毎年、この時期に起こ・・・って、聞いてる?」
 俺は、流星群に目を奪われていた。

 数時間が経ち、やっと目を離した俺に、幻聴は問う。
 「まだ死にたいと思うかい?」
 「いや・・・もう大丈夫だ。」
 俺は答える。
 「よかった。これで僕の役目は終わりだ。じゃあね。」
 空では星が輝いていた。

3/16/2024, 8:22:10 AM