むすめが初めて携帯を持って
1ヶ月がすぎたころ
晩ごはんどきに
むすめの携帯に1通のメールが届いた
青ざめるむすめ
届いたメールを20人に送信しないと
殺されるという
当時よくあったチェーンメールであった
わたしと2番目のむすめは
そんなの無視すれば良い
と、言っているのに
ともだちに送ろうとしている
送らなくても相手にはわからないでしょ
と、呆れたように言えば
真剣な表情で、怖い!と言いながら
メールを見せてきた
…そこに書かれていたのは
イルカの超音波を使った最新の機器で
送ったかどうかの確認ができ
時速なん万キロだかでる
どこだかの国で開発された車で
送ってないときはお前のとこに向かう
どこからつっこんだらよいのやら
な内容だった
2番目のむすめは大爆笑していたが
むすめは信じきって恐怖に怯えている
しかたないので
わたしに20回送れば?と言ったら
すぐさま20通のメールを送信してきた
「あー、こわかったー」
むすめは安心して
ご飯を食べ始めたのだった
ヨカッタネ…
わたしは届いた大量のメールを
削除したのだった
子どもの頃
毎年お盆になると、祖父の実家
いわゆる本家とよばれる家に
親戚が集まっていた
わたしの住んでいた街から
車で1時間の長閑な場所
公道から家まで
両脇にどこまでも続く
広い畑を眺めながら私道を登り
大きな家の前には
整えられた庭と
鯉が泳ぐ池をわたる小さな橋
庭先でいつも曽祖母が
ゴザの上で草餅を作っていた
小屋にいる牛を眺めたり
畑にいってトマトをとって食べたり
その上を大きなカラスアゲハがとんでいて
子どもたちみんなで追いかけた
…本家のおじさんが亡くなった
葬式のあと
本家のあった場所を訪れた
祖父が亡くなってからは
疎遠になっていたので
知らなかったのだけれど
数年前の地震の影響で
おじさんはここを離れて
町で暮らしていたらしい
家はもうなく
庭は荒れ果て
池は緑の藻で覆いつくされていた
子どもの頃はあんなに大きく見えた畑も
大人になった今では小さく見える
それは少し寂しく感じたけれど
わたしの中のあの景色は
いつまでも変わらずに
残るのだろう
わたしが働いている
ケアハウスのおじいちゃん、おばあちゃんは
寒がりな人が多い
6月、気温28℃の中
窓のそばで日にあたりながら
「今日は暖かいねぇ」
と、カーディガンを羽織っていたり
趣味の編み物をしながら
「ベストができるから
その服の上に着ないかい?」
と、汗だくのわたしに申し出てきたり
「風があたるから窓しめてくれる?」
と、言われ
心で涙しながら窓を閉め
廊下を歩いているおじいちゃんは
すべての廊下の窓を閉めて歩いていた…
…たのむから
窓は開けておいてくれ!
7月、気温30℃を越え始め
冷房がはいるまでの
わたしの毎日の願い事
薄曇りの空
蒸し暑い空気のなか
ポツポツと雨が降り始める
アスファルトに水玉模様がついて
ゆっくりと真っ黒くしていく
その時にたちのぼる匂い
あれは
夏独特のものだなぁ
と、仕事帰り
車を運転しながら
濡れていくアスファルトをながめ、思う
仕事前に
外にほしてきた洗濯物は
ずぶ濡れか…
おばあちゃんは昔
泳げるようになりたくて
プールに通っていた
むすめが小さいときに
おばあちゃんに誘われて
プールに行ったのだが
教えてもらったとおりに
顔をつけてバタ足しても
前に進まないのだ
と、おばあちゃんは悩んでいた
「おばあちゃん、やってみてー」
むすめがリクエストすると
おばあちゃんはその泳ぎを披露してくれた
顔を水につけ、腕をまっすぐ伸ばし
バタ足を始める
…ほんとうにまったく進まない
それどころか
おばあちゃんはお腹を中心にして
回転を始めたのだ
え?なんで?
まるでスクリューのように回転しながら
ゆっくりとおばあちゃんは
プールの底に沈んでいった…
わたしもむすめも
この衝撃的な泳ぎに大爆笑
おばあちゃんは水底から戻ってくると
「ね?進まないでしょ?」
と、訴えていたが
そういうレベルの問題ではないよ…