わたしは
ケアハウスというお年寄りの施設で
清掃のお仕事をしている
フロアの中心にある洗濯室という部屋で
清掃の準備をするのだが
こういう施設にいるお年寄りは
うっかりなにかをやらかすことが多い
そして、この洗濯室には危険物もあるので
お年寄りが入れないよう
外側にカギがついている
カギをあけ、ドアを開けっぱなしにして
わたしは清掃の準備をする
そこに、職員さんが物をとりに入ってきた
わたしは雑巾をしぼりながら
職員さんをずっと見続けた
職員さんは忙しそうに
こちらを見ずに出て行く
ドアを閉め
ガチャリとカギをかけた
もう30回以上繰り返される
閉じ込められ案件
あれは大型台風が上陸していた日
そんな日に限って車に忘れ物をして
アパート横の駐車場まで
取りに行くことにした
「いっしょにいく!」
2歳のむすめは玄関で長靴をはき
「かさ、させる!」
と言って子ども用かさをつかんだ
まぁ、アパートでてすぐのとこだし
と簡単に考えて外に出たら
とんでもない強風と大雨
傘を押さえながら車に向かうと
後ろから
「おかあさーん」
と、強風にかきけされるほどのか細い声
ふりかえるとそこには…
傘を必死でつかみ
数センチ宙に浮くむすめがいた
わたしは
あまりの衝撃的な絵面に
反応が遅れてしまい
地面に着地すると同時に
後ろにコロコロと転がっていくむすめを
あわてて追いかけていった
人は強風で宙に浮くことができるのだった
わたしが小学生のころ
テレビの洋画劇場では
ホラー映画が多く放送されていた
ホラー映画を一人で観る!
…当時のわたしは
それがなんだかすごいことだと思い
ある日のホラー映画を一人で観ることにした
親は仕事がら9時過ぎには寝てしまう
誰もいない居間で
音を小さくしながらテレビを見ていた
しかし、わたしは怖がりだった
背後から殺人鬼が忍び寄ってくれば
慌てて自分の部屋に逃げ
意味もなく歌を歌って踊り
殺害シーンが終わるころ居間にもどって続きを観る
という、よくわからない鑑賞のしかたをしていた
いよいよストーリーも終わりに近づき
「夜が明けたわ、私たち助かったのよ!」
というセリフを聞いてわたしはほっとした
そして何の前触れもなく現れる殺人鬼
わたしは自分の部屋に逃げるまもなく
そのシーンを見つめていた
その日わたしは
電気をつけたまま寝たのだった
階段の最後の一段を見失って
こける
買うものをメモして
メモをもってくのを忘れる
ボディソープで
頭を洗う
自分の車に似た
知らない車に乗り込み
運転席のおじさんに驚かれる
むすめを車で迎えに行った帰り道
話しかけても返事がないので
後ろをみたら
むすめが乗ってなかった
(むすめは荷物だけのせて
ともだちと立ち話してたらしい)
…老化の恐怖を感じる瞬間
大学生のとき
とてもステキな人たちと出会い
楽しい毎日を過ごしていた
一晩中飲んだあと
「海をみにいこう!」と唐突に盛り上がり
自転車を40分こいでいき
海に向かってさけんでみたり
夜、テレビのスケート番組をみて
「スケートしたくなったねー」
と、速攻でフェリーにのって
リンクが営業しているところまで
日帰りしてみたり
もちろん
イヤなことも辛いこともあったけど
それ以上にパワフルで笑いの絶えない日々だった
卒業して
みんなそれぞれの場所へすすんで
たぶん
もう会うことはないと思うけど
でもあの4年間は
わたしの宝物です