あれは10年ほど前のこと
暖かい平日の午後
わたしは
玄関前の花壇の草むしりをしていた
ふと、顔をあげると
家の前にたぬきがいた
…ここは住宅街
なぜこんなとこに?
困惑するわたしなど気にもとめず
たぬきはひとの家の敷地に入ってきた
そしてぐるっと一回りすると
再び歩道にもどり去って行く
わたしは歩道まで出て
たぬきの行方を見届けた
やつはそのまま真っ直ぐとすすみ
道路を横断すると
その先にあるスーパーの駐車場へ消えていった
気ままなたぬきであった…
限りなく球体に近い
そのフォルム
頭のコブも愛くるしい
短いヒレを必死に動かして
進んでますか?と問いたくなる
魚にあるまじき
ヘタクソな泳ぎ方
わたしが近づくと
突進してきて水槽にぶちあたり
一瞬気を失って浮いてみたり
口にすっぽりはまった小石をとろうと
必死になってからだを底に打ちつけ
すぽーんと口から小石をとばす
この世でいちばん愛らしい
我が家のらんちゅう
自分のこれまでの人生で
誰かにささやいたことなんてあったかな?
ささやく、というのが
人に対してひっそりと
ことばをかけることなら
今
新しい世界でもがいている
我がこどもたちに
自分ではどうすることもできないことなら
あきらめて
切り捨ててしまうか
そっと距離をおいて
静観して
自分が動くことでなんとかなりそうなら
あきらめないで
やってみたらいい
母は代わってあげることはできないけど
それでダメなら
他の生き方もあるからね
と、ささやきたいな
子どものころから
数えて6回ほど引っ越ししたけど
割と大きい街に住むことが多かった
どんなに街をはずれた住宅街でも
街灯や家の明かりはそこそこあって
空を見上げても
かろうじてオリオン座が見えるくらい
それでもまぁ、けっこう星は見えるもんだなー
なんて思ってたけど
一度、小さな山の手前にある
田舎の丘の上に住んでたときは
初めて夜空を見たとき
びっくりしてしばらく立ち尽くしてた
こんなに空には星が存在してたんだ
自分が見えてないだけで
圧倒的存在感
そして
近くに街灯なんてないのに
ほんとにぼんやりと明るくて
あの街の夜空は
いつでも
星空のあたたかさと畏怖を感じさせてくれた
今もやっているかわからないけど
今から20年以上前
某教育番組のひとつに
影絵を使った
外国の童話を語り聞かせるものがあった
この某教育番組の時間は
むすめがわたしから離れる数少ないとき
わたしは急いで家事をこなしていく
何度か様子をみていたら
テレビは影絵を使ったお話になっていた
むすめは真剣にみている
タイトルは「パンをふんだ娘」
なんだそりゃ、ふざけたタイトルだ
と当時のわたしは思ったけど
アンデルセンの有名なお話だったらしい
高慢な娘がぬかるみの道の上を歩くのがイヤで
パンを踏んで進もうとしたら
パンごとぬかるみの中に沈んでいくという
…ホラー?
これ、子どもにみせていいの?
と、台所から覗いていたら
おもむろにむすめが立ち上がり
テーブルの上にあった食パンを床に置いた
そして、食パンのまわりを
どうしよっかなー、みたいな感じで
ぐるぐると歩きまわっていたのだが
ピタッと立ちどまり
ぐわっと片足をあげたところで…
わたしの怒鳴り声が家に響きわたった
教育によくないお話だった