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4/6/2024, 7:01:10 PM

君の目を見つめると。

全てを見透かされているような。

そんな気分になる。

4/5/2024, 12:50:38 PM

星空の下を、ゆったりと歩いた。
満天の星空、雲ひとつない。澄んだ空気。昼間は暖かくなってきたとはいえ、夜の空気はまだまだ少し、冷たかった。
「上着を持ってきたらよかったね」
誰ともなしに呟く。吐く息が白いような気がして、はあと吐き出してみた。だけども当然そんなわけはなくて。夜空を見上げて星座を探す。たくさんの星々を結びつけて、熊とか、犬とか、白鳥とか。そんなお絵描きを楽しんだ人間が、遠い昔にいたんだね。遠い昔に生きた誰かも同じ空を見上げていただなんて、考えてみれば、すごく不思議な気分になった。
「今日も明日も明後日も」
毎日は続いていくわけで。遠い未来の誰かも、同じ星空を見上げるのだろうな。空に誰かが書いたお絵描き。メッセージ。
星空って、素敵なものだね。

4/4/2024, 11:46:47 PM

「世の中、いいことばかりが起こればいいのに」
ぶー、と口をとがらせて、不満を漏らした。何をやっても上手くいかない。そんな日が誰だってあるだろう。私にとって、今日が絶賛そんな、上手くいかない日だった。
どれくらいだめな日かというと。朝の占いは最下位だったし、朝ご飯のトーストは焦げているし、いつものバスは乗り損ねるし、お目当てのドリンクは昨日まで。ひとつひとつは大したことはない、のだが。積み重なると、その重さに気分も沈む。いいことが、ひとつもない。
「なんだそんなこと」
不運を嘆く私の隣。ベンチに腰掛けた君は、なんでもない事のように言った。なにもかもが上手くいかない日があるなんて、それはそれでいいじゃないか、と。不思議なことを言う、いったい何故そう思うのか。
「全部がいいことばかりになったら、何が本当にいいことか、何が何だかわからなくなりそうじゃないか」
それから少し思案した後、そうだね、例えば。と続ける。
「今こうして、二人で一緒に過ごす時間、とか?」
これはいいことには入らないかな?
そんなことを言い出したものだから、面食らってしまう。思わずしどろもどろになってしまう私を君は、だから言ったのに、と、笑う。
「いいことも当然になってしまえば、別にいいことではなくなるんだよ。際限がないね」
だから、上手くいかない日があっても、それでいいんだよ。沈んでいた気分は、そうして話すうちに、いつの間にか浮き上がっていた。君の言葉に、納得がいくような。なんだか上手いこと誤魔化されたような。
確かに私にとって君は、いいことの部類だったようだ。

4/3/2024, 8:14:01 PM

「ひとつだけ願いが叶うなら、どうする?」
唐突に言いだしたのは、君だった。
その日は朝から雨が降りそうで、降水確率は80パーセント。道行く人は、皆傘を持っていた。私だって例外ではない。いつかコンビニで買った無個性で汎用なビニール傘は、持ち手をデコった私仕様。柄のついたテープは、私の精一杯の個性だった。
「どうって、うーん」
願いなんてたくさんあるようで、こういう時にはなかなか思い浮かばない。「億万長者になりたい……とか?」悩んだ末に苦し紛れに答えた私を見て、君は呆れたような顔をして笑っていた。
「そんなに笑うなら、君は何を叶えてもらうのさ」
君は少しだけ目を細めて、おどけたように言う。
「自分なら、どうか傘を恵んでくださいってお願いするよ」
降水確率80パーセントなのに。傘を持っていない君のお願いに、思わず笑いが盛れた。ひとつだけのお願いは、傘には少し荷が重いと思わない?
「今の自分に一番必要なものは、傘だと思うんだよね」
ふざけているように見えたけれど、君は真剣なようだった。空はますます暗くなり、今にも降り出しそうだ。確かに君には、傘が必要かもしれない。私は肩をすくめて、すいとビニール傘を持ち上げた。
「はい、では君の願いは叶いました」
ぽつりぽつりと、雨が降ってきた。ばさりと開いたビニール傘を、君に傾けて一緒に収まった。透明なビニール傘から、空を見上げる。傘を叩く水の雫。小さな川になって落ちていく。
傘の持ち手に貼り付いた、私の精一杯の個性。気がついた君が笑う。
ひとつだけ願いが叶うなら。こんな日々がずっと続きますように。