#114 だから私は一人でいたい
他人の些細な息遣いが耳につきはじめたら限界なのだ
私は部屋にこもってひとり静かに布にくるまる
思わず誰かを傷つけて、自分も傷つかないように
ある日、そんな私を「心配」という善意を着た隣人が尋ねてきた
いくらなんでもずっとひとりは寂しすぎるだろう
少しは陽に当たった方が気分が良くなるだろう
などと、用意してきた彼の思う親切を披露すると
断りもなく私のくるまる布を剥ぎ取ろうとしたが
その瞬間、抑えていた「私」が出てしまい
彼に言葉の牙を剥いた
全力で。
彼の着ていた「善意」があっという間に「憎悪」に変わる
人の親切をなんだと思ってるんだ変人!
彼は勇んで着てきた一張羅の「善意」を剥ぎ取られたことに腹を立て出ていってしまった。
静かになった部屋で私はまた布にくるまり
牙を剥いてしまった「私」を再びなだめながら
ため息をつく
あぁ、だから、一人でいたいのに...
...
お題「だから一人でいたい」
#113 君も幸せになっていい
誰かのためになるならば
自分はどうでもいいなんて
かっこよさげで
かっこよくない
君にも幸せになる権利はある
耳触りのいい言葉でカッコつけて
幸せになる権利を捨てないで
「誰かのためになるならば」
#112 かごの小鳥が鳴く理由
鳥かごにいるだけで
「かわいそう」
と眉をひそめる不自由な人たちを
私はかごの中からあざ笑っている
とても美しい鳴き声で
「鳥かご」
#111
花咲いて
朝露を日々
まとわせて
そばで見守る
散りゆく日まで
「花咲いて」
#110 空色に重ねるセンチメンタル
誰も知らないけれど、
私の視線の先にはいつも彼が居た。
でも、彼の視線の先にはいつもあの子がいる
そして、おそらくあの子も彼と同じ気持ちのように見える。
残念ながら、私と彼は一度も視線が交わることはなかったし、この先もずっとなさそうな気がしていて、
2人の間に割り込んで自分の気持ちを伝えるだけ伝える「ダメもと」もアリかもしれないと迷っていると、
「そこまで頑張るほどのことかしらね〜?」
賢いふりをしていたい自分がささやいた。
.....
誰にも悟られないよう
ふぅっとため息をついて
こっそり抜け出して屋上に出る。
久しぶりに『彼』を視線から外すと
その視線の先には梅雨明けの空
昨日までの梅雨空を夏が押しやったばかりでまだはっきりしない水色の空。
でも、きっと来週になれば
コバルトブルーの夏空になるのだろうね。
私はエイッと空に向かってひと伸びをすると
空色に重ねたひとときのセンチメンタルを屋上に置いてオフィスに戻っていった。
まだまだ賢いふりを続けていたいから...。
お題「視線の先には」