神様だけが知っている
私と貴方の一瞬の物語
貴方はあの時言ったわ
『ずっとそばにいる』って
約束、守ってよ…
どこにいってしまうの?
私は、貴方とそっちにいってはいけないの?
…答えてよ……
『神様だけが知っている』
通勤するあの人はすぎてゆく街並み。
初めて親になったあの人は生まれてきた小さな生命。
親の帰りを待つあの子供は仕事帰りの親の姿。
授業中に眠くなったあの学生は外で運動する生徒の姿。
希望に満ちたあの人は朝焼け。
今日が嫌になってしまったあの人は星々と月明かり。
恋人と離れるあの人は恋人の乗った車。
一人取り残されたあの人はいつも隣にいた人の眠り顔。
窓越しに見えるのは、その人によって違う。
今の貴方には、何が見えているだろう。
貴方の心は、なんと言っているだろう。
『窓越しに見えるのは』
あなたと離れるのは私も寂しいわ。
またいつか、ここではないどこかで会いましょう。
それまで元気でね。
ーーーーー今日の朝は目覚めがいい。
夢を覚えてはいないけれど、
どこなく、私が小さい時に亡くなった母親に抱きしめられたような、そんなあたたかさがあった。
会いに来てくれたのかな。
今の成長した姿を見せたいな。
またね、お母さん。
『ここではないどこか』
あれから5年が経ったよ。
もう、すっかり笑えるようになって。
心を許せる相手もできた。
大好きな人も増えて、私はすごく幸せだよ。
もっとこっちの世界でお土産つくってそっち行くから。
それまでちょっと待っててね。じゃあ、またね。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
高校2年生の夏。
私の親友は空へと身を投げた。
彼女はどんな気持ちで命を手放したのだろう。
彼女がいない世界を愛せないとあの時は思った。
私の唯一の希望だったから。
でも今、こうして私は笑えている。
貴方との思い出は私の支えになっている。
ごめん。つらかったよね。
気づいてあげられなくて。ごめん。
君と最後に会った日は
どうしようもなく綺麗な空と
君のいつも以上に明るい笑顔で
私の心に一生残る光であり傷でもある。
あの時の笑顔はこの世界から解放される嬉しさから
…なのかな。
君がいない世界で頑張って生きていくから、
待っててね。
ーーーーーどこからともなく懐かしい
笑い声が聞こえた気がしたーーーーー
『君と最後に会った日』
「ねえ、きみってまるで繊細な花のようだね。」
誰?誰が私に話しかけてるの?
「どうして君はここにいるんだい?
そんなに疲れているのに。
体は悲鳴をあげているのに。」
やめて。話しかけないで。
「あーあ。僕だったらこうはしないのに。
良いこと思いついた!僕と一緒に逃げよう?」
逃げる?そんなの無理に決まってる。
どうせこのセカイから逃げ出せないんだ。
みんな私を非難する。
「だからこそだよ!ほら、手を取って。
ラクになろうよ。僕も一緒にいるからさ。」
優しい目、声をする彼に
私はすぐに心を許してしまったみたいだ。
どこかで聞いたことがあるような声。
会ったことあるような雰囲気。
「あんまり気が乗らない感じ?
まあ、まだ考えても良いけどさ。」
…いく。一緒に、いかせて
「じゃあ、決まりだね。
もう君は心も体もズタボロじゃないか。
お疲れ様。」
ぎゅっと抱きしめられたような優しさに包まれ、
思わず涙がこぼれる。
こんなあたたかさを感じたのはいつぶりだろう。
「…上手に泣けなかったのかな。
いっぱい泣きな。つらかったね、苦しかったね。」
そう、私はずっと我慢してた。
耐えないと、耐えないと、って。
「よしよし、いいこいいこ。
疲れちゃったね。
…逝こうか。」
私は名前も知らぬ彼と手を取り
優しさに包まれながら
ずっと憎んでいた社会を見渡す。
そして星空を見上げ
記憶から星空をなくさないよう目をきゅっと瞑り
私は自由な空へと一歩踏み出した。
『繊細な花』