「そう、貴方のそう言うところが好きだったんだよねー」
君は薄めに作った水割りのグラスを揺らしながら言った。
中に入った氷がカランカランと音を立てる。
その一言で、僕の頭の中はパニックになった。
それはいつの話?
確か僕は君にフラれたよね?
返す言葉を見つけられない僕を見ながら、君は笑った。
「距離が近すぎて、恋愛対象にならなかったけどね」
「でも、失敗したかなー」
君はまた、グラスを揺らしながら続けた。
君のそのイタズラな笑顔は、昔から変わらない。
その笑顔、大好きだよ。
そんなことを考えていたら、君は僕の顔を覗き込んできた。
「ねぇ、私のこと、まだ好きでいてくれてるの?」
すべてを見透かされている。
どう答えるべきか。
僕はいったいどうすればいいの?
〜どうすればいいの?〜
君と出会った。
君と過ごした日々。
君がいること。
きっと君そのものが、
僕の宝物。
〜宝物〜
「どんな事があっても、僕は君を守るよ」
「何があっても、私は貴方の味方だよ」
何が起きても僕たちは、手を取り合って乗り越えてきた。
だって2人で約束したから。
今日は君の結婚式。
僕たちが辿り着けなかった日を、
僕の知らない相手と迎える。
あれから何年経っただろうか。
2人の間にはたくさんの思い出がある。
そんな思い出を一つ一つ思い出していく。
キャンドルサービスで君が点けた、
僕のテーブルの灯を見ながら。
〜キャンドル〜
バンドの練習の帰り道。
最後に合わせたラブソングを心の中で反芻する。
ふと見上げた夜空にはオリオン座が輝く。
「冬の大三角ってどれだっけ?」
この前君と見た時にそんな話をしたことを思い出した。
そんな事を考えているうちに、
君の声が聴きたくなった。
残り度数の少ないテレフォンカードと、
自販機で買った缶コーヒーと、
ありったけの小銭を握りしめて、
いつもの電話ボックスに駆け込んだ。
なんてことない日常の思い出だけど、
冬になったらいつも思い出す。
高校3年生の記憶。
〜冬になったら〜
いつもの様に、いつもの場所で。
いつもの時間に、いつもの車で。
いつものコースで、いつもの店に。
いつもの食事と、いつものデザート。
いつものバーで、いつものドリンク。
いつもの部屋で、いつものキス。
いつもの様にお互いを求め、身体を重ねる。
どれだけ「いつも」を重ねても、
2人の心ははなればなれ。
どれだけ「いつも」を重ねたら、
貴女は私のものになるのでしょう。
〜はなればなれ〜