待ち合わせはいつもの場所。
彼女の家の近くまで迎えに行き、帰りも同じ場所で別れる。
デートコースはその時の気分。
海を見に行ったり、山道を走らせたり。
変わらないのは運転席の僕と助手席の君。
そして、2人の関係も変わらない。
デートは仕事が終わってからだから、いつも夜。
そう言えば、君と会う日はいつも星がキレイだ。
4月生まれの君の首元にはいつもダイヤのネックレス。
わかってる。あいつにもらったネックレスだよね。
僕の車のキーには歳下のあの子から貰ったキーホルダー。
お互いにパートナーからもらったものを身につけて、過ちが起きないようにお互いを戒める。
あの頃と違って、今の僕にはこの車がある。
これさえあれば、君を連れてどこまででも行ける。
あいつの監視からも連れ出せるだろう。
でもそんな勇気がなかった。
どこまでも飛べる翼を持っていても、飛ぶ勇気がなければ意味がない。
いつまで僕は飛べない翼をたたんだまま、うずくまっているのだろうか。
〜飛べない翼〜
「今日は帰りが遅いね。部活に行ってたの?」
君が問いかける。
教室には僕と彼女の2人きり。
「君に会いたくて、ね。」
僕のこの答えに、君の顔が少し緊張したのがわかった。
「またまた、そんな冗談ばっかり言ってー」
君のその一言で少し空気が柔らかくなる。
でも、その言葉と同時に見せてくれた笑顔に僕は心を決めた。
「あのさ、夏に『やっぱり今言ったこと、忘れて』って言ったじゃない。あれ、やっぱりなし」
「…。それはどう言う意味?」
少し困った顔をしながら、君は少しの沈黙の後にそう言った。
そして、これから僕が何を言おうとしているのかを察して、
君は頬を赤らめた。
その少し困った顔も大好きだ。
その赤くなった頬も好きだ。
彼女の全てが愛おしい。
彼女への気持ちがとめどなく溢れてくる。
それと同時に、彼女が柔らかくした空気が、またピンと張り詰める。
「あれからずっと考えてた。でもダメなんだ。」
お互いの緊張が一気に高まる。
彼女への気持ちと同じように、僕の口からも次々と言葉が溢れ出す。
「やっぱり君のことが…」
鼓動が早く、大きくなる。
彼女に聞こえているのではないかと思うくらいの音で。
「やっぱり君の事が、ス、スキだ!!」
同時に廊下から入ってきた風が、教室の花瓶に刺さってるススキを揺らした。
そんな高3の秋。
放課後の教室で。
〜ススキ〜
僕たちの過去を知らない人たちは、
「そんなに仲良しなら、付き合えばいいのに」
「えー、付き合ってるのかと思った」
などと言われる。、
僕たちの過去を知って人たちは、
「あれだけ何回もフラれて(フって)、よく仲良くおれるな」
と言われる。
僕らの関係は、付き合うとか付き合わないとかではなく。
ただ、お互いが必要だから。
「それって、都合のいい関係ってこと?」
わかんないだろうな。
僕と彼女の関係には名前がない。
僕と彼女の関係に名前をつける。
それは意味のないこと。
〜意味がないこと〜
コーヒーと紅茶
肉まんとあんまん
たこ焼きと明石焼き
ガソリンと灯油
扇風機とサーキュレーター
美容院と理髪店
どれも似ているけど少し違っていて。
組み合わせることも混ざることもなく。
それぞれが意味を持つ。
あなたとわたしは?
きっと組み合わせて、混じり合って。
お互いに伸びていく。
〜あなたとわたし〜
「おはよう。今日も寒いね」
「おはよう。あれっ、今日はどうしたの?」
「うん、親父の仕事の都合でね。朝からこの辺にいるんだ」
「そうなんだ。もうお父さんの仕事は終わったの?」
「まだやってるけど、僕は学校行かんといけんし」
「それもそうだね」
「さっき親父に言われたんだけど、また何回かこんな日があるからよろしくって」
「そうなの、朝から大変だね。頑張ってね」
「うん。だからまた会うかもしれんよ」
「そうだね。私はいつもこの道をこのくらいの時間に通るから、また会うかもね」
「そん時は、今日みたいに一緒に学校へ行こう」
「私と一緒だと楽しくないかもよ?」
「そんな事ないよ。こっちこそ迷惑だったらごめんよ」
「ううん。そんな事ないよ」
「じゃ、決まりね」
2人並んで商店街を自転車で走りながら、学校へ行く。
「上手に嘘がつけたかな」
途中にある服屋の前に置いてある大きな鏡の中の自分を確かめながら。
〜鏡の中の自分〜