「泣くなよ」
「うう、だって」
遠くまで引っ越すことが決まった日、僕はいの一番に親友に伝えた。幼い頃から泣き虫だった彼は話を聞くやいなやすぐに涙を流した。
「二度と会えなくなる訳じゃないんだからさ」
「それでも、ずっと一緒にいた君と別れるのは嫌なんだよ」
泣き止む気配が一向に無い。困った。ふと空を見上げると、秋晴れの空が広がっていた。
「あ…。なあ、見ろよ。綺麗な空」
「え?…本当だ、どこまでも青いや」
「寂しくなったら、この空を見あげればいい。離れていても、空で繋がってるって考えれば多少は寂しさも薄まるだろ」
「うん…そうするよ。見上げる空は同じだもんね」
親友はブランコから立ち上がり、改めて空を見上げた。その目からもう涙は流れておらず、代わりにどこまでも続く青が写っていた。
今年は十月のはじめ辺りに衣替えをした。自室のタンスと居間のタンスの中身を入れ替えるだけの、簡単な衣替え。替えながら、ブラウスとかシャツが多いなぁとか、この服は今シーズン一回も着なかったなぁとか考えている。それにしても服が少ない。元々ファッションに頓着が無いため、数種類の服を着回すというミニマリストじみたことをしている。しかし大人の女性と呼ばれる歳頃、これじゃいかんと何着か買い足した。今年は色々な服を着れるといいなぁ。
通っていた小学校は、年中行われる様々な行事にとても力を入れていた。特に運動会。赤白対抗で行われ、各競技の得点を合計して競う。応援合戦。えっこれも特典換算されるの!?と今思えば疑問が残るが、無垢な子供たちは懸命に応援に取り組む。取り組まないと怖い先生に怒られてしまうのもあって、喉を痛める勢いで腹から声を出す。中でも応援団長はありったけのパワーを使って団員たちを率いるのだから、かなりの統率力と大きな声が必要だ。12歳にやらせることじゃないよ、あんなの。卒業して随分経ったが、母校は今もやっているのだろうか。あのころの私たちは声を枯らして懸命に叫ぶように応援の言葉を繰り返した。エールいくぞー!おー!
楽しいことの始まりは、いつも君だったな。高校に上がって友達が一向にできない私に声をかけてくれたあの日。しんどくてしんどくて、学校に行きたくない時、メッセージをくれた日。友達になって初めて、遊びに行こうよって言ってくれた日。
どれもが君から来るLINEだった。高校を卒業して大人になっても、遊びの誘いや悩みの相談が来る。君から始まる楽しいこと。私はいつも、そのメッセージを嬉々として受け取る。さあ、今日は君から何が始まるのかな。
私の住んでいるところは田舎で知り合いと出会うことも多い。買い物に行くと出会うことはざらにある。よく行くスーパーがある。母親とカートを転がして晩御飯のメニューを考えながら品物をカゴに入れる。レジでお金を支払って、品物をマイバッグに詰めて、さぁ、帰ろう。歩き出すととある人とすれ違った。あれ?あの人、小学校の時の先生?よく見るとやっぱり2年間お世話になった先生だ。堅物であまり笑わなかった先生が、穏やかな笑みを浮かべて奥さんと買い物をしていた。あぁ、お元気そうで良かった。何も言わずに知らないふりをしてそのまま立ち去った。えっ、すれ違いってこういう事じゃない?