桜散る
桜並木を歩く。
満開時期を過ぎた四月の中旬。
葉桜が目立ち始め、人も少ない。
このくらいの方が見やすくていいかもな、
そう思いながらゆっくり歩みを進める。
昔はあまり好きではなかった。
春を代表するこの花を少し憎く感じていた。
今思えば桜ではなく、春が嫌だったのだと思う。
出会い別れる季節。
私は出会いも別れも経験したくなかった。
いなくなってしまう人、
その人の代わりに新しく出会う人。
上手く乗り継ぎができなくて置いてけぼりになって。
そんな昔のことを思い出して笑ってしまった。
今はもう憎くなど感じていない。
満開な桜はまだ気後れしてしまうけど、
緑の増えた葉桜には少し親近感が湧いてくる。
誰もいないからと散ったさくらをかき集め、
空に勢いよく投げた。
クルクル回りながら花びらを浴びる。
私は皆を笑顔にさせる桜にはなれないけど、
大切な人を笑顔にする葉桜にはなれるかもな。
夢見る心
いつもより整えられた綺麗な髪。
手で少し掬ってみる。
綺麗でしょ、と笑う君。
君がそうでなかったことなど一度もないよ、
そう思いながらぎゅっと抱きしめた。
「おめでとう」
君のとなりを歩く彼が羨ましい。
優しい人だと君を愛している顔だと見るだけでわかる。
でも、でも。
君の手を取って遠くの街へふたりで逃げたい。
君のとなりを私が歩きたい。
私に笑いかける君にそう伝えたい。
届かぬ想い
『今日も仕事で遅くなる💦
ご飯は何か買って食べるから。いつもごめんね』
母からのLINEを確認しながら階段をおりた。
今日は母さんの好きなシチューの予定だったのにな、
そんなことを思いながらスリッパを靴箱にいれる。
こんなことは日常茶飯事だ。
父が早くに亡くなったため、
母は女手一つで僕を育ててくれていた。
母のことはもちろん尊敬している。
それでも少しの寂しさが、食卓を襲う。
帰り道で買ったコンビニ弁当。
母さんがいる時しか作る気にならないから、
一人の時は基本これだ。
そんな僕ひとりの食卓を母は知らない。
自分で作って食べていると思っている。
母さんがいるから美味しいのに。
母さんと一緒に食べたいからつくるのに。
そんな考えも冷えたお米とともに飲み込んだ。
神様へ
誕生日になると思い出す。
父と交わした最後の約束。
「必ず帰ってくるから。そしたら一緒にケーキ食べよう」
必ず帰るって言ったのに。
一緒にケーキを食べようと約束したのに。
消防士だった父は火災現場に駆けつけ、
知らない子どもを庇って死んだ。
当時の私と歳の変わらない子どもだった。
父の死は小さくともニュースになり、
見た人は父の死を悔やみ、
そして未来ある子どもを守ったことを評価した。
消防士としては名誉のある死だったのだろうか。
だったら父親としてはどうなのだろうか。
今更考えたって無駄なことだった。
父はもういないし、
私の誕生日は父が亡くなった日だからと、
祝われることもなくなった。
ねぇ、神様。
私お父さんのところにいきたいよ。
お父さんに会いたいよ。
ねぇ、神様。
今度こそ、
今度こそ私を幸せにして。
遠くの空へ
ブルーインパルスが飛んでいた。
上空を高く高く飛んでいた。
復興を願い、明日への希望をもって。