好きじゃないのに
ふとした時に目が合う。
それはわたしが彼を見ているからなのか、
彼がわたしを見ているからなのか。
人からの好意が苦手なわたしは
彼からの好意を拒んだ。
それ以降彼を避けるようになって、
話しかけられても素っ気ない態度をとるようになった。
子どもっぽいことをしているって分かってるのに、
君を見ると辛くてやめられなかった。
それから三ヶ月くらい話さない日が続いたね。
今は少し話せるようになったけど、
君の視線を感じると怖くなるよ。
なんで君はまた、わたしのことを見てくるの。
君のこと好きな女の子近くにいるのにさ。
君が何考えているのか、目が合ったってわかんないよ。
怖がり
虫が怖い。魚が怖い。雨が怖い。雷が怖い。
車が怖い。電柱が怖い。テレビが怖い。
先生が怖い。クラスメイトが怖い。
先輩が怖い。後輩が怖い。
いつも笑顔の人が怖い。
いつも怒っている人が怖い。
「怖い」に囲まれて生きる。
今日もまた新しい「怖い」に出会う。
新しいが私は怖い。
絆
まだ何も知らなかった頃。
彼らとは死ぬまでずっと友達でいるのだと思っていた。
そうじゃなくなる想像はできなかった。
少し知り始めた頃。
縁は意外と簡単に切れてしまうものだとわかった。
小さいコミュニティから離脱すると
世界を少しだけ俯瞰した気になっていた。
知りすぎてしまった頃。
なにもかも信じることができなくなっていた。
大人の言葉は汚くて、子供の言葉は癪に触った。
自分以外の人間が気に入らなかった。
そうやって生きて、そうやって死んでいった。
僕の祖父はそういう人だった。
臆病で癇癪持ちで反抗すれば手をあげる。
何もかも知った気になって人を見下す大人。
祖父は人間が嫌いだったけど、
僕はそんな祖父が嫌いだった。
だってあんたの葬式に来たのは僕だけだったから。
あんたもわかってたんだろ、
自分の葬式に来る人なんていないこと。
骨壷に入った祖父にそう言葉を投げかけた。
もう意味のない僕の言葉。
あんたの耳に届いていたことがあっただろうか。
何度無視されただろうか。
二人暮しだったのに会話は喧嘩の時だけだった。
その喧嘩もあんたの八つ当たり。
あんたとの思い出は胸糞悪いものしかない。
あんたが死んでくれて清々している。
何も知らない人が聞いたら怒るだろうが
訂正するつもりもない。
感謝も謝罪もあんたはしなかったし聞かなかった。
本当にあんたがきらいだったよ。
骨は細かくして海にまいた。
これで僕の仕事も終わり。
僕はあんたみたいにはならない。
人に囲まれて死ぬ。
あんたは僕の反面教師だったな。
そう考えて少し後悔した。
欲望
いちばんになりたい。
特別になりたい。
そんな気持ちばかりが湧いていた。
頭から離れないその気持ちと、
僕がずっとそんなことを考えていることが嫌で、
自分の中身を抉るように何度も何度も吐いた。
そのうち吐き癖がついてしまったけれど、
胃の中が空っぽになることが
僕の心も空っぽになっているようで楽だった。
いつかこの気持ちとバイバイする時が来るだろうか。
いつか「いちばん」に、「特別」に、なれるだろうか。
そんなことを考えて、
また気持ち悪くなってしまった。
遠くの街へ
きっかけは同級生が
バイクの免許を取得したことだった。
僕はバイクに興味なんて全くなくて
彼の話は話半分で聞いていたけれど、
たまに見せてくる知らない街の写真が
どうしようもなく綺麗に見えてしまった。
だから家族の反対を押し切って
自動二輪の免許を取りに教習所に通った。
最初はコケてばっかりで、
嫌気がさす時もたくさんあった。
それでも諦めずに続けていたら、
卒検、学科試験を行うことができ、
ついに普通自動二輪の免許を取得した。
そして迎えた納車の日。
僕の元に来たバイクはとてつもなく輝いていた。
初めて一般道路を走った時の高揚は
今でも忘れることができない。
自分が通っていい道なのか疑いながら走ったな。
それからはソロツーリングも沢山した。
彼が見せてくれた街が
二つ街を超えた先だったことはすごく衝撃的だった。
自分の見ている世界がどれだけ小さくて
自分の当たり前がどこにでも通用するだけではないと
思い知った。
僕はこの先も色んな世界を知るだろう。
そしてあの時遠くに行きたかった気持ちを
僕はこれからも抱えて生きていくんだろう。