此岸

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まだ何も知らなかった頃。
彼らとは死ぬまでずっと友達でいるのだと思っていた。
そうじゃなくなる想像はできなかった。

少し知り始めた頃。
縁は意外と簡単に切れてしまうものだとわかった。
小さいコミュニティから離脱すると
世界を少しだけ俯瞰した気になっていた。

知りすぎてしまった頃。
なにもかも信じることができなくなっていた。
大人の言葉は汚くて、子供の言葉は癪に触った。
自分以外の人間が気に入らなかった。


そうやって生きて、そうやって死んでいった。
僕の祖父はそういう人だった。
臆病で癇癪持ちで反抗すれば手をあげる。
何もかも知った気になって人を見下す大人。
祖父は人間が嫌いだったけど、
僕はそんな祖父が嫌いだった。

だってあんたの葬式に来たのは僕だけだったから。
あんたもわかってたんだろ、
自分の葬式に来る人なんていないこと。

骨壷に入った祖父にそう言葉を投げかけた。
もう意味のない僕の言葉。
あんたの耳に届いていたことがあっただろうか。
何度無視されただろうか。
二人暮しだったのに会話は喧嘩の時だけだった。
その喧嘩もあんたの八つ当たり。
あんたとの思い出は胸糞悪いものしかない。

あんたが死んでくれて清々している。
何も知らない人が聞いたら怒るだろうが
訂正するつもりもない。
感謝も謝罪もあんたはしなかったし聞かなかった。
本当にあんたがきらいだったよ。


骨は細かくして海にまいた。
これで僕の仕事も終わり。
僕はあんたみたいにはならない。
人に囲まれて死ぬ。
あんたは僕の反面教師だったな。
そう考えて少し後悔した。

3/6/2026, 2:04:48 PM