まだ夜になったばかりの空。下の方は、太陽の名残を残すオレンジ色に染まっている。上にいくにつれ、青のグラデーションになっていて、その一番濃いところに、三日月が浮かんでいる。
何とも言えない美しさに、立ち止まってしばらく眺める。この瞬間を残そうと、カメラを向けてみる。でも、レンズ越しに写る空は、何か違う。月は小さくて作りもののようだ。
本物は、もっと透明感がある。グラスに入った飲み物のような。オレンジジュースの上に、ブルーの液体が入って、三日月の飾りが浮かんでいる。または羊羹か。何色かが層になった手の込んだ和菓子。妙においしそうな感じなのだ。
でも、この瞬間は短い。オレンジ色はだんだんと青色に吸収されて、気付けばすっかり、濃い青色に覆われている。
「月夜」
一緒の場所にいることになった人みんなと、うまくいくということは、なかなかない。何となくソリが合わないとか、お互いに絶対折り合えないなとか思うこともある。
でも、そこで出会えたということは、やっぱり縁がある人なのだ。一緒に過ごすうちに、そこにいるのが当たり前で、そういう人だと思って受け入れていたりする。
そのうちに、なんだか妙な一体感が生まれている。気づいたら、けっこう強固なエネルギーで、ふわっと包まれているのだ。
「絆」
スーパーに行くと、二階でセールをやっていた。普段一階の食料品を買うばかりで、あまり上には上がらない。たまには行ってみようかと思った。
エスカレーターで上がると、20%オフの、のぼりが見えた。衣料品や日用品が通路のほうまで並べられている。アクセサリーのコーナーが目に入った。コサージュや、ネックレスなどが、手頃な価格でたくさんある。
その中の小さなブローチが気になった。パールが丸く散りばめられている。手にとると、照明が当たってパールの土台の金色の部分がキラキラ輝いている。鏡の前で胸元に当ててみた。いつものカーディガンが、ちょっとだけ良いものになった気がする。心なしか、顔まで明るく見える。
ん、買おう。何か特別なセレモニーがあるわけではない。普段にこそ、どんどん使おうではないかと思うと、妙にうれしくなって、ブローチをレジに持っていった。
「たまには」
すれ違った人から懐かしい香りがして、思わず振り返った。もちろん違う人なんだけど、君からいつも漂っていた。キリッとして、さわやかな輪郭が残るその香りが、とてもよく似合っていた。
君のことが大好きだったころ、うまく思いを伝えられなかった。いざ二人になると、妙にカチコチになって、自分らしくいられなかった。どこか無理をしていたのかもしれない。
でも、とても魅力的だった。今はその思いがすてきな面影になって、心の奥にしまってある。
「大好きな君に」
雛人形をいつから出さなくなっただろうか。ミュージアムや店先で飾ってあるのを見るくらいになった。今は、精巧にできた人形や、調度品の細かい細工を楽しむことができるけれど、小さいころはどのくらい分かっていただろうか。
それよりも、ちらし寿司や、お菓子のほうに心を奪われていただろう。この頃になると、お店に桜の香りが漂う桜餅や、お団子が並ぶ。その香りと優しい色合いに、思わず心がおどる。3月3日は、春の訪れが感じられる桜餅を買って帰った。
「ひなまつり」