あの交差点を渡れば、家へと続く道だ。二人で歩く時は、なんてことのない交差点だったけれど、今日はとてもつもなく大きな場所に見える。車が結構なスピードで通りすぎた。その勢いにおされながら少し後ずさりする。
「じゃあね」と帰っていった人は、もうこの交差点を渡ってこないだろう。違う方向へ進んでいくのだ。もしかすると、その先にはまた知らない交差点があって、違う道から来てもまた出会えるかもなんて思ってしまう。
信号が青に変わった。たくさんの車がずらっと控えている。顔をあげて、いつもよりしっかりと地面を蹴って歩いた。
「未知の交差点」
前を早足で歩く人が、コスモスの花束を抱えていた。広告紙で無造作に包んだそれを、少し持て余したように持ち替えている。あっ。下に向けた時、はらっと一輪落ちた。
「あの、花が落ちましたよ」。「あっ、すみません。良かったらそれ、もらってください」。せわしなく振り返って申し訳なさそうに、その人は小走りで行ってしまった。
家に帰って、ガラスのコップにコスモスをいける。真ん中の黄色は鮮やかで、ピンク色の花びらは、とてもみずみずしく見える。秋の気配が一気に流れ込んだ気がした。
「一輪のコスモス」
夕方、外に出るともう薄暗くなっている。日が暮れるのが早くなった。枯葉の匂いが混じったような、少し冷たい風が吹きぬける。昼間はまだ暑かったので半袖だった。歩き出すと腕がひんやりとする。
「お疲れさま」。聞き慣れた声がした。隣の部署の人だ。「半袖? 元気がいいね」。長袖の薄いジャケット姿で、颯爽と通り過ぎていく。
「あれっ? あの人、あんな感じだったっけ?」。久しぶりに見た長袖姿のせいだろうか。秋の空気のせいだろうか。遠くなっていく後ろ姿は、いつもと違って見えた。
「秋恋」
愛しているつもりだけれど、それは愛なのだろうか。ただの執着なのではないか。
そもそも愛するって何だろう。ただ、好きということは分かる。愛かというと分からない。愛とは? そんな単純なものではない気がする。これが愛だと勘違いしているのかもしれない。
人を愛するなんて、すごいことかもしれない。自分さえもなかなか愛せないのに。それは、自分のエゴなのかもしれない。そんな気になっているだけなのかもしれない。
「愛する、それ故に」
人前に立って何か話をするのは苦手だ。
いざ、話そうと立ち位置に行くと、静けさに足がすくむ。音はしないのに、前にいる人たちの気配が一斉にこちらを向く。意識のかたまりが、うわーっと押し寄せてくる気がするのだ。
すると、怖いほどの寂しさが襲ってくる。たくさんの人がいるのに、その中でひとりきりだという感じがする。
そう思った瞬間、頭の中が真っ白になる。ドキドキ胸の音がして、前にいる人たちの顔は見えているけれど、見えていない。自分の声が聞こえてくる。変な声? 足が地面から浮いているよう。ああ、誰か音を立ててくれないだろうか。話す間ずっとふわふわしたまま、静けさの中心にいる。
「静寂の中心で」