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 前を早足で歩く人が、コスモスの花束を抱えていた。広告紙で無造作に包んだそれを、少し持て余したように持ち替えている。あっ。下に向けた時、はらっと一輪落ちた。

「あの、花が落ちましたよ」。「あっ、すみません。良かったらそれ、もらってください」。せわしなく振り返って申し訳なさそうに、その人は小走りで行ってしまった。

 家に帰って、ガラスのコップにコスモスをいける。真ん中の黄色は鮮やかで、ピンク色の花びらは、とてもみずみずしく見える。秋の気配が一気に流れ込んだ気がした。

「一輪のコスモス」

10/11/2025, 7:21:50 AM