NoName

Open App
10/6/2025, 8:01:33 AM

 月が明るい夜は何だか落ち着かない。夜の闇に身を沈めたい、そんな気分の時も容赦なく照らしてくる。

 闇の中で、ひっそりとしているいきものたちも明らかになる。いくら身をひそめていても、青白い光が差し込んでくる。
 
 太陽とは違って、月の光はビロードのように、なめらかな輝きを放つ。そこにあるものは、青い陰影で形作られる。

 でも見上げると、月は白く清々しい顔をしていて、ずっと見ていたくなる。

「moonlight」

10/5/2025, 8:44:17 AM

 はっと目が覚める。時計を見ると、家を出る時間が迫っていた。あわてて飛び起きて、身支度をする。家を出て、駅までの道を急いだ。
 
 最初の関門は信号だ。車通りが多くてなかなか変わらない。やっぱり赤だ。車の信号が赤になった。もう横の人が歩き出した。行く?と思っていると、ようやく青に変わった。小走りで横断歩道を渡る。その先には細い小道が続く。前の人がゆっくりゆっくり小道に入ろうとしていた。脇から、すっと入って追い越させてもらう。
 
 次は、踏切だ。カンカン…と聞こえてくる。まだ遮断機は降りていない。今日だけ…。慌てて走った。心臓がだいぶドキドキしている。いつからか、あんまり走らなくなっていた。慣れない走りに足がもつれそうになる。
 
 駅に近づくと、向かう人と出てくる人で流れができている。出てくるほうの流れが少ない。今日だけすみません、と思いながら、そちらを通る。やっと駅に着いた。汗をふきながら、大きく息をする。なかなか呼吸が整わない。朝から倒れそうだ。最近の夜更かしがたたった。寝る前に何かしたくなるのを、今日こそ我慢しようと思った。
 
「今日だけ許して」

10/4/2025, 7:01:46 AM

 ただのひとりになりたい、そう思うことがある。ただ一人でいたいというのではない。

 今まで、行ったことのないような街に行く。乗ったことのない電車に乗って、入ったことのない店に入る。そこでただ、風景の一つになる。
 
 いつもの街でも、人がたくさんいるところに行く。そこの中のひとりになって、ただ存在するだけになる。名前も分からない。そんな、〝誰か〟になりたいと思うときがある。


「誰か」

10/3/2025, 8:07:09 AM

 夜、寝る時横になると、どこからともなく足音が聞こえてくる。電気をつけている時は気づかないのだけれど、静かになるとわかる。
 
 ドコドコと大人の人らしい音がしたり、バタバタと軽い子どものような時もある。集合住宅だから仕方がない。隣の部屋か上の階か、どこかからなのだろう。比較的はっきりと聞こえる時もあれば、かなり遠いなと思うこともある。でも、眠りを妨げられるような音ではない。たまに何も聞こえてこないと、あれっ?と少し物足りないような気分になる。
 
 寝るのがずいぶん遅くなった時も、いつものように足音が聞こえてきた。あちらもずいぶん遅くまで起きているな。ん? 人の足音だと思っているけれど、もしかして? いやいや違うよね…、いつも、気がついたら眠りに落ちている。

「遠い足音」

10/2/2025, 6:22:29 AM

 商業施設の屋上に庭が作ってあった。中に入ってみると、木に緑色の丸いものがたくさんなっている。近づくとリンゴだった。こんなところに? ビルとリンゴ? 不思議な気分になった。リンゴはまるまるとして生命力にあふれている。

 まだ日差しも強く、半袖を着ていた。目の前を何かが横切った。トンボだ。奥の一角にトンボがたくさん飛んでいた。そこには、もふもふの緑の毛玉や、ふさふさのついた秋の草が生えている。トンボは上下したり、回ったりして楽しげだ。

 植物や虫は、どうやって秋の訪れを知るのだろう。かすかな大気の移り変わりでわかるのだろうか。日がかげると、清々しい風が腕に触れる。そろそろ長袖かな。生き物たちより少し遅れて、秋の準備を始めてみることにした。

「秋の訪れ」

Next