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9/12/2025, 5:04:12 AM

 雲海が見えるというホテルに泊まった。朝、外を見ると、その日は見ることができなかった。
 
 ホテルの露天風呂に行ってみる。扉を開けると、誰もいない。目の前に、遠くの山々の緑が見えた。空気がキーンと冴えて清々しい。
 ひとり、湯船に浸かった。少しぬるめのお湯に心地よく包みこまれる。静かだ。露天風呂は、高い場所にあるので、空中に浮いているよう。空に手を伸ばしてみた。朝の光をうっすらと浴びた白い空の中にすーっと吸い込まれそうになる。雲海が出たときは、ここも雲の中になるのだろうか。
 
 ふいに、入り口の方から声がした。はっと、目が覚めたような気がした。

「ひとりきり」

9/11/2025, 6:25:25 AM

 赤、緑、青。最近この3色で迷ったばかりだ。
欲しいと思ったペンの軸の色がこの3色だった。
いつも持ち歩くから、気に入ったものがいい。
 
 ぱっと目をひく赤は、持っていると元気がでそうだ。かっこよくもあるし、かわいくもある。
緑は、優しげでおしゃれにみえる。目にも良さそう。青は、スマートだ。これを持っていたらちょっとできる人にみえそう。

 手とのなじみ具合を見てみたりする。そうだ、自分の茶色の手帳と合わせたらどうだろうか。パキッとした3色は、どれもよく映えて相性が良さそうだ。

 んー、選べない。もう最初に目についたものにしよう。きっと今の気分にしっくりきているはずだ。そして、一番落ち着く気がした緑を新しい相棒に決めた。

「Red,Green,Blue」

9/10/2025, 6:14:39 AM

 カメラにレンズフィルターをつけると、光が色々とあやつられて、違う世界を見ることができる。心にもレンズフィルターをつけたら、強すぎると感じる光から心を守ることができるかもしれない。
 
 ふわっと曇りガラスのように、ソフトにしてみたり。程よく影を見せてもらって、刺激を抑えてみる。温かい色をプラスして、ほっこりしたり。シャープな色合いでクールダウン。時には、キラキラした光を強調して、エールを送ってみたり。
 そんなことを想像してみたら、何だか面白くなってきて、少し心が軽くなるような気がする。

「フィルター」

9/9/2025, 8:42:19 AM

 その新しいコミニュティに行くようになってから、もうだいぶ経つ。少しずつおしゃべりも交わすようになっていた。でも、ある時名前を呼んでもらえないことに気づいた。距離を感じて、寂しく思う。まだまだ、新しい人なのだ。
 
 人の出入りが少ないところで、そこに新しく受け入れてもらうのは、難しいのかもしれない。こちらからももっと心を開けばいいのだろうか。
 まあ、そこまで気にすることないか。また普通にしていれば、いつも通りこれからも過ぎていくだろう。それでも、居心地が悪いような気がするなら、もっと自分に合う場所を探してみよう。


「仲間になれなくて」

9/8/2025, 9:07:50 AM

 帰ろうとしたら、急に雨が降ってきた。雨の予報ではなかったので、傘を持っていなかった。「傘、忘れた」と言っていたら、ふいに君が通りかかった。

 「傘ないの?これあげるよ」と、ビニール傘を差し出してくる。えっ?と戸惑っていると「忘れてよく出先で買うから、傘たくさんあるんだよ」と言って、さわやかに笑う。そして、カバンからさっと折り畳み傘を取り出して、さっと行ってしまった。
 その時の傘は、まだ大切に家にある。


「雨と君」

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