雲海が見えるというホテルに泊まった。朝、外を見ると、その日は見ることができなかった。
ホテルの露天風呂に行ってみる。扉を開けると、誰もいない。目の前に、遠くの山々の緑が見えた。空気がキーンと冴えて清々しい。
ひとり、湯船に浸かった。少しぬるめのお湯に心地よく包みこまれる。静かだ。露天風呂は、高い場所にあるので、空中に浮いているよう。空に手を伸ばしてみた。朝の光をうっすらと浴びた白い空の中にすーっと吸い込まれそうになる。雲海が出たときは、ここも雲の中になるのだろうか。
ふいに、入り口の方から声がした。はっと、目が覚めたような気がした。
「ひとりきり」
9/12/2025, 5:04:12 AM