もっともっとと自分にムチを打って、まだ足りない、ここも足りないと思う。自分にないことばかりに目を向けていた。
苦手なことをがんばるのは、なかなかしんどい。それを乗り越えたかった。
自分の得意なことは、たとえほめられるようなことがあっても、そうかな? となかなか受け入れられない。でも、それをする時は、とても自然で、あっという間に時間が過ぎていたりする。そうか。もっと努力したいものは、できないことではなく、自分の中にあるものだった。
「ここにある」
足のサイズを測るのに、素足でと言われる。
えっ、素足? ちょっと恥ずかしい。普段、甲を覆う靴ばかり履いているので、すっかり油断している。かかと、爪、きちんとしていただろうか。靴下を脱ぐと、糸くずなんかも指についていて情けない。
サンダルを履き、美しい足で歩く人をよく見かける。かかと、足先もよくお手入れされていて、おしゃれだ。足という細部にまで気を配れる人は本当にステキだと思う。
そんな人に憧れながらも、スニーカーで過ごしている。それでも素足は、きちんとしておかなければ、と思う。そして、たまにはサンダルにチャレンジしてみるかな。
「素足のままで」
ずっと好きなことを追い続けていればいいと思っていた。でも、なかなか思うところへはたどりつけない。だんだん苦しくなってきて、やめてしまった。
すると、自分を通る軸がなくなって、ヨレヨレになった気がした。楽になったはずなのに、何か違う。また、嫌になってきた。
本当はどうなのか、心の奥にある思いを探ってみる。やっぱり好きなのだ。好きなのだから、楽しまなくちゃ。もっと気楽にやってみよう。
またもう一歩だけ、踏み出してみることにした。
「もう一歩だけ、」
そういえば、朝起きた時から辺りが静かだった。カーテンを開けても、差し込んでくるまぶしい光がなかった。
外に出ると誰も歩いていない。一人で道を歩く。今、昼なのか、夕方なのか分からない色に包まれている。くもりの日は、空気の粒子が見えるような気がする。まるで、気泡を閉じ込めたお菓子の淡雪のように。
音も淡雪の中に閉じ込められたのだろうか。よく聞こえてくる子どもたちの声も、犬の鳴き声もしない。見える景色はいつも通りなのに、ひっそりとしていて、よく出来た作りモノのようだ。同じ姿をした別の街に感じる。
その時、さーっと、後ろから自転車が通り過ぎた。あっ。カチッとスイッチがはいったような気がした。駅前のざわめきが聞こえ、人がぱらぱらと歩いてきた。いつもの街だ。ほっとしながら、駅に向かった。
「見知らぬ街」
道を歩いていると、にわかに薄暗くなってきた。ポツっと雨がかかる。あっと思ったら、ポロポロと雨が落ちてきて日傘兼用傘では、かわしきれないほどになった。ゴロゴロ…。遠くで雷の音もする。ドキッとする。
またたく間に、足元がびっしょり濡れて、肩先も冷たくなってきた。ふと顔を上げると、シャッターの閉まったお店の軒先に、何人かの人が雨宿りしている。私もそこへ入った。
雨は、相変わらず激しく降っている。遠くの空がピカッと光ると、しばらくして、バリバリ、ドーン! 隣の人と思わず、目が合った。いやー、すごい。声には出さないけれど、そんな顔をし合った。誰かといることが、なんとなく心強かった。
5分くらい待っていると、少し雨足が弱まってきた。奥にいた人が、さっと傘をさして歩き出した。ほかの人も続く。雷が近づかないうちに、私も歩き出した。
「遠雷」