不条理に、ふっと息を吐いて
きみの手を、つかんで飛んだ。
〉不条理
好きなものは積もる。無意識に引き寄せ、絡め取り、少しずつ自分の中に蓄積されていく。顕在意識下で行うよりもずっと効率が良くて、繋がりやすい。
苦手なものは避けられる。誰しも好まないものに率先して近付くことはない。それは明確な意識のもとで行われる。
たとえば、自分が不得手だと思っていたこと。自分には出来ない、他者に劣ると思い込んでいたこと。それを実は無意識に自分が愛していたとしたら、どうだろう。
距離を取っていた、恐れていたもの。だけど目を惹いてやまないもの。意識的に避けていた。それでも、人の中では無意識が強いものらしい。
人生の中では思いがけず、何もないと思っていた0の輪の中に、無数のギフトが眠っていることがある。
向き不向き、得手不得手、効率や合理性。世の中には色んな基準や言葉があるけど、結局のところ愛に勝てるものは見つからない。
〉0からの
請われたから作るだけ。本当は自分の分しか作る予定はなかった。眺める紙には、数年前からリピートしているお気に入りのクッキーとケーキのレシピ。目の前には毎年同じところで買うクーベルチュールチョコレート。
キッチンで長いこと格闘する。甘い匂いに包まれながら。別にあなたのためじゃない。自分が食べるついで。
「バレンタインはもはや野郎のためにあるんじゃない。自分のためにおいしいチョコレート菓子を用意して楽しむ日ですから。」
そう言ったのは本心だ。現にここ数年は本当にそうだった。でも、どうしてもあなたの手作りが食べたいと、どの程度本気なのかも分からないけれど、言われて渋々頷いてしまって。そこからこの半月、妙に気になって。
焼き上がったものを冷ましたり、仕上げたりしながら、ラッピングの用意をする。少し気持ちが落ち着かない。あれはどういうつもりで言ったんだろうか。チョコレートが好きなだけなら、市販のものでも買って食べればいいのに。むしろ、望めばくれる人なんてたくさんいるはずなのに。
最後に結ぶリボンは、あなたを連想させる色。名前から、勝手な想像でしかないけど。
どんな顔して渡したら良いんだろう。とりあえず、約束通り作ってきましたよ、でいいかな。
〉あなたに届けたい
人目を避けて置かれた一人掛けのソファ、温かい紅茶、メープルの香りがするビスケットタイプのシリアル。家でどんな目に合っても、ここでは全てが関係なかった。保健室の片隅が、安心できる場所だった。
〉優しさ
きっかけは、何だったのかな。
ぽつりぽつりと紡ぐのが心地良くて、楽しんで日課にしていた。ぷつりと糸が切れるみたいに、ある日を堺に書けなくなった。手も頭も止まった。
何をしても形にならなくて、まわりはいつも、自分よりずっと優れて見える。滑稽。痛々しいくらいに、いつまで経っても何も出来ない。子供よりたちが悪い。
こんな自分を、今までの選択を、やり直すことが出来たら、何か変えられるんだろうか。
〉タイムマシーン