水上

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請われたから作るだけ。本当は自分の分しか作る予定はなかった。眺める紙には、数年前からリピートしているお気に入りのクッキーとケーキのレシピ。目の前には毎年同じところで買うクーベルチュールチョコレート。

キッチンで長いこと格闘する。甘い匂いに包まれながら。別にあなたのためじゃない。自分が食べるついで。

「バレンタインはもはや野郎のためにあるんじゃない。自分のためにおいしいチョコレート菓子を用意して楽しむ日ですから。」

そう言ったのは本心だ。現にここ数年は本当にそうだった。でも、どうしてもあなたの手作りが食べたいと、どの程度本気なのかも分からないけれど、言われて渋々頷いてしまって。そこからこの半月、妙に気になって。

焼き上がったものを冷ましたり、仕上げたりしながら、ラッピングの用意をする。少し気持ちが落ち着かない。あれはどういうつもりで言ったんだろうか。チョコレートが好きなだけなら、市販のものでも買って食べればいいのに。むしろ、望めばくれる人なんてたくさんいるはずなのに。

最後に結ぶリボンは、あなたを連想させる色。名前から、勝手な想像でしかないけど。

どんな顔して渡したら良いんだろう。とりあえず、約束通り作ってきましたよ、でいいかな。

〉あなたに届けたい

1/30/2023, 1:07:48 PM