【羅針盤】
不沈艦の羅針盤は寸分の狂いもなく方角を示した。
それらは水夫の道標(みちしるべ)となり、向かう先を示した。
不沈艦は今どこで、何をしているのだろうか。
沈んだのか、まだこの広大な海を航行しているのだろうか。
私たちは水夫(かれら)が導き出した航路を往く。
それが幸福に繋がるのならば、私たちは航路を往く。
【明日に向かって歩く、でも】
明日に向かって歩いた僕は、何度でも死んだ。
1000回目の死を迎えた時、全てを理解した。
「明日に向かって歩くのでは無い、死に向かっている」
そう悟ったとき、何もかもがどうでも良くなった。
落ちてくる鉄パイプも恐れなくなったし、突っ込んでくるトラックもどうでも良くなった。
生き返る、息変える。
蘇る、甦る、黄泉返る。
何度でも繰り返した先、僕は廃墟になった街で旅をすることになった。
蔦のはったビルの外壁、鳴く鳥の声。
ただ喧騒のない街並みが、僕を見下ろしていた。
明日に向かって歩く、でも僕は立ち止まったままだ。
【子どものように】
あなたは、いつまでも子供のようだった。
夕焼けの太陽を持って帰ってこいと癇癪を起こしたり、
時にはご飯を美味しそうに食べる姿さえも愛おしかった。
僕は、「あの日の事件」から子供に戻ったあなたを大事にしていきたい。
【カーテン】
カーテンは今でも閉め切られたままだ
もう何年も、私はここで閉じこもっている。
ある日、窓を叩く音が聞こえた。
恐る恐るカーテンを開けると、悪魔がいた。
彼…いや、ジルは私を異世界に転移させようとやってきたのだ。
不思議な力…大きな猛禽の胎内に飲み込まれ、私は違う世界の母親の胎へと宿った。
目が覚める、どうやら俺の名前は××××らしい。
前世の記憶もあるが、今はどうでもいい
今の俺は、××××だ。
閉め切られた遮光カーテンを開けたから、
今の俺がいる。
【束の間の休息】
「ふぅ…」
コーヒーを飲み、徹夜明けの身体をほぐしながら机に戻る。
私は小説を趣味で書いているのだが、そのアイデアが溢れ出てきたから書きとめている最中だったのだ。
これが、私の休息。
これが、私の現実逃避でもあったのだ。