夫婦は
落ちていく葉の中で、ただ座っていた。
優蔵さんは入院中に百合子さんが編んだニット帽とセーターを身につけている。
こうやって太陽の下で二人ゆっくりするのは久しぶりだ。
今日は体の調子がいいから。と言った百合子さんには、それでもまだ微熱がある。
落ち葉が降る。
降り落ち、積もる落ち葉に、時の流れと蓄積した時間を思う。
そして愛情とは時間じゃないかとも思う。
共に過ごした長い時間が降り積もっていく。
このなんともない、二人ただベンチに座っているだけの時間を終わらせないでほしい。
優蔵は思う。
冬のはじまりを知らせるように、冷たい風がびゅう、と吹いた。
「もしもわたしに何かあっても泣かないで下さいね。」
穏やかな笑顔で百合子が言う。
「ばかだなー。
泣くわけないだろー。」
優蔵は百合子から少し距離をとって涙を拭った。
160作突破記念
「距離」
前回 11/22 150作目。
10作ごとぐらいにしている。
これまでのタイトルを並べて繋げたもの。
内容は続いていない。
インターバル的なもの。
猫をケモ耳つけた擬人化で想像してみる。
ミケコは年若く、気の強い女だ。
「信じらんない!何日も来なくってさ!」
クロはミケコより少し年上の、物腰の柔らかい落ち着いた男。
「ごめん……
ごめんね………。」
ふわりとした物腰でミケコの隣に座る。
「なんだよ!くんなよ!
おこってんだぞ!」
「うん……
ごめんね………。」
そう言いながらもクロはさらにミケコに近づく。
「なんだよ!バカ!
クロなんかきらいだ!」
そう言ってそっぽを向くミケコの頬を伝う涙を、
「ごめんね…。」
と言ってクロがペロリとなめる。
「なんだよう………。」
ポロポロと泣き出すミケコの頬を、クロはペロペロと………
ペロペロと……………?
…………擬人化むりや。
「泣かないで」
口どけのいい小さな四角いチョコを、一粒口に頬張る。
青いマフラーを巻いて、今日も駅に立って電車を待っている。
「冬のはじまり」
昨日は、
お天気がよくて、夕方のきれいな日だった。
シャンパンゴールドの日が差しているかと思ったら、気づいたらもうロゼになっていた。
こんな日を、充実して過ごした人には、とてもいい夕方だろうなあ。なんて、夕方やっと外に出た自分は思った。
でもそんな時間は短くて、日はすぐに暮れ、帰りには空の色はまた変わってしまった。
家に着いたらすっかり暗くて星さえ見えた。
景色がロゼ色だった時、
この景色を「終わらせないで」なんて、思うかしら。
いや、また同じような景色に会うのだから。
いろんな景色があってそのいろいろがよくてこの景色もその一つなんだから。
そんなことは思わないよね。
って思ったのだけど、あまりに短かったから、もう少しの時間、終わらせないでくれてよかったな。と思った。
「終わらせないで」
溢れ出たものはハートのかたちをしているとして、
胸の中にいる本体は、眠りつづける猫みたいなかたちじゃないかと思ったりする。
ハートなんかよりもっと有機的な。
そしてわたしの胸の中の様子を見てみると、
二匹の猫がいる気がする。
一匹は灰色猫。
これからは黒いハートが出てはすぐにぼろぼろとくずれるを繰り返しているみたい。
こいつからは傷つくようなことをされたり、心配事が多いから、こんなことになっているのだろう。
もう一匹は白身の多い茶トラ。
肉球の色のような薄桃色のハートを出しては、パチン、パチン、とはじけて消える。
ただ胸の中でハートを出しているのではもったいないので、時々その薄桃色のハートを取り出して、あのこのLINEに送りつける。
「愛情」