わたしは彼に最後まで片思いだった。
学校へ行くときはいつも彼に会えるのがうれしくて。
街中でもわたしたちは偶然会うことが多かった。
本屋に電器屋、CDショップ。
すれ違ってしまいそうなどこかの通りとか。
気楽な友だちづきあいだったから、出会うと、
「なんだー、またお前かよー。」
と悪態をつかれる。
「こっちこそだし。」
と軽く肩にグーパン。
そんな仲だった。
進路を違えて、わたしたちの生活圏が変わってしまった。
学校はもちろん、街中でももう会わない。
それでもわたしは、あいつと会ったそこかしこで彼の姿を探し、
似た人を見るとドキリとし、
いないと確認してはがっかりとする。
いつまでも いつまでも…
忘れられるわけがない…
「忘れたくても忘れられない」
お風呂上がり。体はまだほんのりほこほこ。
洗って乾かしただけのすっぴんの髪。
外に出て夜空を見る。
満月の明るいやわらかな光と、どこからか漂う金木犀の香りを、髪の毛に纏わせる。
「やわらかな光」
わたしの片想いの相手はとてもクール、というか表情のあまりない人。
…片想い?じゃないかもしれないけどそこはまだはっきりと言葉で確認はしていないから…。
その彼と学校帰り、ベンチに座ってたい焼きを食べていた。
一丁焼きのカリカリのたい焼き。
「ここのたい焼きは皮もおいしいけど、あんこもとってもおいしいよねー。」
話しかけるも、彼は前方を向いてむしゃむしゃ。
表情に出ていないけど、ほんとはよっぽどすきなのだろう。わたしがまだ半分ほどなのに彼は食べ終えてしまっている。
食べ続けようとして、ふと視線を感じて、顔を上げる。
彼がわたしを見ている。
もう口の中のも無くなったみたいでむしゃむしゃもしてない。
じーっと見ている。
じーっとわたしの口元を、まるで獲物を狙う獣のような鋭い眼差しで見ている。
(ま、まさか…)
心臓がものすごい音をたてる。
彼の手が伸びてきたので目をぎゅっと瞑る。
口元のあんこを指で掬い取って食べた。
「そっちかーーーーー!!!」
「鋭い眼差し」
参考 : 10/10「ココロオドル」
2匹のモンシロチョウがもつれながら水色の空へ高く高く昇っていく。
穏やかな気候の中。
「高く高く」
きれいな瞳だと思った。
子供のように無垢で。
見てすぐに思った。
宇宙人かなにかだって。
白銀の髪の子供のような見た目。
でも鼻がほとんどないように見える。
目はとても澄んだ青色。
あ、あっちの子は紫色だ。
こっちはエメラルドグリーン。
髪型と目の色が違うだけでおんなじ顔。
そんなことを思っているうちに、僕は縛られてしまっている。
この鳥籠のような建築物の中で。
彼らが鳥籠から去り、入り口が閉まると、鳥籠はふわりと浮いて地面から離れた。
頭上にはUFOのようなものがある。
僕は思った。
子供って、無垢な目をして悪戯で平気で虫をいたぶり殺す生き物だったなって。
「子供のように」
参考 : 7/26「鳥かご」