「つまらないことでもいいから言ってみ?」
って、ほんと?
最近ペットボトルのフタ、開けられないんだよね……
「つまらないことでも」
わたしは神社で巫女のバイトをしている。
そう、ただのバイト。
でもそんなわたしの前に、ある日小さな神様が舞い降りてきて、こう言った。
「お祭りをしてほしい。」
と。
嵐が来ようとも、どうしても言われる日にしてほしいと、澄んだ瞳でお願いされた。
なぜ神だとわかったかと言われると、本人がそう言っているから。
わたしはその神を、神社の他の人たちのもとに連れて行った。
「うちの神社の神様ではないね。」
「小さい…」
「うちの神様でもこんな風に姿を現されるのを見たことないのにね。」
そんな声はあったものの、さすが神社に仕える人たち、疑うようなことはなく、いかにその神とやらの望みを叶えようかという話になった。
まず、仕えている神社の神に、神主さんがこの神とやらに力を貸すことの許しを願う儀式をした。
それから、他の人を呼んでの大々的な祭りだと、この神社の神のためのものであると思われてしまうのがよろしくないので、このことを知ってる神社の者だけで、内々に小ぢんまりとやろうということになった。
舞を奉納することになった。
神の希望から半日くらいの長丁場で、間に祝詞をはさみながら。
祭りの日には、神様から、自分はやるべきことがあるから一人でいたいと言われていた。
拝殿の奥の方に衝立をして仕切ることにした。
明日、もし、晴れたら、舞を終えてもいい。
そのように言われた。
たしかに明日の天気は雨の予報。
深夜から、雨がしとしとと降り続いている。
朝になり、わたし達は祭りを始めた。
まず祝詞をあげる。
これから祭りが始まるという合図。
それから舞と祝詞を交互に繰り返す。
わたしも一生懸命に舞を捧げた。
何巡したか、ほどなくして、衝立が倒れ、ものすごい風の塊が外に飛び出していった。
それがあの神であることはみな察しがついた。
一体何が起きているというのか。
わからないが必死で舞と祝詞を続ける。
見に行った者の話によると、あの神様が姿を大きくして、嵐の中の空の上で、黒い、うねうねとしたものと戦っていたらしい。
夕方、空は晴れて、雲の間から日差しが差し込んだ。そこでわたし達は祭りを終えた。
わたし達もへとへとだったが、神はそれ以上に消耗していた。最初よりは大きいが、小さくなり、小さなこどもくらいの大きさになった神は、戻ってくるなり倒れ込み、そのままいままで寝たままでいる。
ニュースを見ると、あの嵐のせいで、私たちの町のあちこちで土砂崩れが起きていた。土石流で流された家もあったらしい。
けど、わたし達の神社のある一帯は、何事もなく無事だった。
これが何のおかげであるかは、神社の者はみんなわかっていた。
神であるので、力が戻りやすいかと、拝殿の隅が急ごしらえの病室となった。
目を覚ましたら、何か話してくれるだろうか。
神が目を覚ますまでには嵐の爪痕も和らいでいるだろう。その時にはみんなの笑顔が少しでも多くあれるように、お祈りをしながら、小さな神が目を覚すのを待っているのだった。
40作突破記念
「目が覚めるまでに」
7/15 20作 7/27 30作 突破記念の続き。
これまでのタイトルを並べて繋げたもの。
内容は続いていない。
◯作突破記念とか言っているがあくまで目安でけっこうてきとうに発動。
反応に関係なく自分が楽しいのでやってる企画。
インターバル的なもの。
ある病室の午前0時すぎ
♪……ピーロッポッポピーロロピロリロ…
調子の外れた横笛の音と共に、10年前に亡くなった奥さんを先頭に、権三さんと親しかった人たちが、かぐや姫のお迎えのごとく、にこにこ、光に包まれながら、雲に乗ってやってきた。
『迎えにきたよ〜。』
しんみりしたのは嫌い。とずっと言っていた権三さん。
「ああ、みんな…
きてくれたのか。」
『そうだぜ。どうだい、派手だろ?』
「ああ、うれしいよ…。」
『この部屋は、お前とあのじいさんの2人きりかい?なんならあいつも連れて行くかい?』
「はっはっは。
あいつは定吉。ここにいる間仲良くしてもらってたんだ。
まあ、憎まれっ子世に憚るだから、あいつは長生きするよ。」
『そうか。そうか。
じょーだんだ。
さあ、いこう。』
♪ピーロッポッポピーロロピロリロ………
「………………
うるさあぁぁぁぁぁい!!!」
権三達が去った後に定吉は飛び起きた。
彼は実は最初の笛の音から起きていた。
うるさかったし、明るかったからだ。
「なんでい。こんちくしょう……。」
定吉の洟を啜る音が部屋に響いた。
その3日後の深夜、定吉だけになったあの病室から、また、笛の音が聞こえてきた。
「病室」
明日、もし、晴れたら
海に行こうか!
プールバッグ持って、電車に乗って。
電車のおともにプリッツとブルーベリーガム持って。
日差しを反射するキラキラのあの無人駅に着いたら、
風が吹いてね
すぐ、海が見えるよ。
真っ青な海と空。
ひまわりもきっと咲いてるね。
ね、海、行こっか。
「明日、もし晴れたら」
深い深い海の底で、めんだこは、海の泡がひとつ、またひとつと、浮き上がっていくのを見ていた。
そこにおしゃべりなクリオネがやってきた。
「やっほー、めんだこさん、ちょうしはどーお?」
「…………」
「あのさあ、ぼくさ、すごいことできるんだよ。
みたい?ねえ、みたい?みたいよね?」
「…………」
「じゃあ、やるからね、みててね。」
「…………」
「バッカルコーーーン!!!」
「………………」
「………………」
クリオネさんはなんだか気まずそうになって、
「じゃあ、またね。」
と、どこかに行った。
ああいう時、どういう反応をしたらいいのかわからない………
だから、一人でいたいんだよなあ…………。
めんだこはまた泡が上がるのを見ながら、小さなため息をついた。
「だから、一人でいたい。」