深い深い海の底で、めんだこは、海の泡がひとつ、またひとつと、浮き上がっていくのを見ていた。
そこにおしゃべりなクリオネがやってきた。
「やっほー、めんだこさん、ちょうしはどーお?」
「…………」
「あのさあ、ぼくさ、すごいことできるんだよ。
みたい?ねえ、みたい?みたいよね?」
「…………」
「じゃあ、やるからね、みててね。」
「…………」
「バッカルコーーーン!!!」
「………………」
「………………」
クリオネさんはなんだか気まずそうになって、
「じゃあ、またね。」
と、どこかに行った。
ああいう時、どういう反応をしたらいいのかわからない………
だから、一人でいたいんだよなあ…………。
めんだこはまた泡が上がるのを見ながら、小さなため息をついた。
「だから、一人でいたい。」
ラムネのビー玉をかざす。
地球がぐるっと映る。
空とか、海とか、草木とか、あらゆる生き物とか
そんな風にわたしの目も地球を取り込んでいるだろう。
あなたからこのほしはどう見えていますか?
あなたの水晶体を貸してください。
言葉がきっとそれになるから。
「澄んだ瞳」
タンッ、タタンッ
踊り続ける。
たとえ嵐が来ようとも。
なぜなら嵐を呼んでいるのは俺だから。
穀物に実りを。
熱く渇いた大地を潤せ。
足首に数珠のようなものを着けて、男が激しく踊り続けている。
人は彼を雷様と言うらしい。
「嵐が来ようとも」
四年に一度のスポーツの祭典では
生首持ったマリーアントワネットがピアフの歌を歌い、血しぶきテープに赤い血煙。
キラキラのゴンドラにはプリマドンナ。
美しい旋律。赤と金のコントラスト。
セーヌ川では絵画の登場人物が、船くらいの大きな顔を川から半分覗かせて、妙に潤んだ目をキョロキョロ。
空には赤いハートの煙幕。
vive la France!と言わんばかりだね。
「お祭り」
「あっつい………しぬ………とける………。」
痩せ形色白髪の色素の薄い、いかにも貧弱な俺。夏は特に苦手。大学に行く途中、河川敷のアスファルトの道にへたりこんでいた。
ヒヤッ
‼︎?
「あげる。」
行きつけのコンビニの店員さんが、俺の頬に凍らせたスポーツドリンクを当てていた。
「熱中症にならないように、気をつけてね。」
そう言うと、ひまわりのような笑顔を残して、私服姿でまた自転車に跨り、コンビニのある方向に去っていった。
「神かな………。」
もらったスポーツドリンクを握りしめ、ぼーぜんとしながら言った。
さっきまで感じなかった風が、さあっと吹いた気がした。
なんでのぼせそうになってるんだっけ…
「神様が舞い降りてきて、こう言った。」