この世の不条理か。俺がモテないこととか?
なんてな、あはは。とふたりして笑っておわり
とはいかなかった。
この子ときたら淡い色の花が綻んだような顔で
たしかに、こんなにいいやつなのにな。
なんて言うんだ。
かわいい、とか。好きだ、とか。抱きしめたい、とか。
どっと気持ちが溢れ出して頭がぐちゃぐちゃになった。
君こそなんでモテないんだよ。こんなにかわいいのに。
ああでもこの不条理のおかげで君とこうしてデートまがいのことをしているのか。だとしたら。
都合の良い不条理ならこの世にあってもいいのかも。
なんてな。
不条理
「ああそう。僕はあんたのこと嫌いだけど。」
言い過ぎ、だって?そうかな。
あの手の女は馬鹿だからはっきり言ってやらないとわからないよ。もっと事細かにどういう所が下品とか生理的に無理とか気持ちが悪いとか言わないと駄目かな。
あいつ自身がそうしていたようにさ。
泣いてた、って?はは、あんたも大概だな。
人の気を引くための演技だよ。少しも化粧が崩れていなかったし。
明日になれば何事も無かったかのようにやって来るぞ。
泣くわけないよ。
人を馬鹿にしてくだらない行為で傷つけて
醜い顔で笑っている奴はさ
泣かないよ
「ねえ平気なの。」
「私だって平気じゃない。でもやるしかないだろ。」
そりゃそうだけど。ああ情けない。
いい歳した男がこんな小さな虫に振り回されて、
大声あげて、女の子に頼って。
でも怖いよ。虫もだけど
君に情けない、って嫌われることが。
そんなこと気にするな。
男だ女だで役割を決めるべきじゃないし
出来るやつがやればいいだけだ。
そんなことであんたを嫌いになるわけないだろ。
でもすまない。
実は怖がっているあんたは可愛くて面白い、って
ちょっと思っているんだ。
怖がり
「ちょっと待て。」
ここで?このタイミングで?嘘でしょ。
いやしかしここは引くタイミングだ。わかってるさ。
何やら良いアイデアでも浮かんだらしい。
使い込まれたノートへと軽やかにペンが走る。
暗めの色をした彼女の目がキラキラ輝き
まるで宇宙が星々を生み出しているようだ。
おあずけは残念だがでも自分の心は穏やかに拍動する。
君の目から星が生まれて
俺の心から星が溢れていく。
そうして溢れる星が無くなったら
また君の気を引こうと思う。
手を噛むなんてことはしないけど
キスくらいは許して。
今度は驚いた君の目から星が溢れて
俺の心から星が生まれていく。
星が溢れる
「よしよし。よくがんばったね。」
鈴蘭のように白く可憐な指先が慈しむ器には
たしかに命があった。
自分が眠っている間に空へ飛び立ったようだ。
長く厳しい旅を終えたその瞳は見えないが、
あたたかでやさしい大樹の様なこの人の手に包まれ
きっと安らかなのだろう。
いつか俺が死ぬ時は
鳥になってこの人のぬくもりに包まれていきたい。
死に場所も選ばせてくれないであろうこの魂にも
安らかな最期を用意してくれ。
なあ神様。お願いだから。
安らかな瞳