さあ、と君は自分の両膝を叩きながら、切り替えるように立ち上がる。私の心はまだこちらに置かれたまま、君の行動を受け入れずに君について行かない。置いていかないでくれ。一人になりたくない。
あと少し、まだ話していたい。帰る予定の時間をはるかに過ぎるまで。さっきまでのように、まだ時間を忘れていたい。
<終わらせないで>2022/11.28(月)
No.5
永遠なんてものはない。
古いホコリの匂いがする椅子は、ぼくにとって貴重なものではないから。乱暴に座るし、食べ物を落として汚す。目の前を落ちた青りんごだって、ぼくが腹を空かせたら食べる。
永遠とは、人間の逃げの結果だ。
人の子としてここにいるのだから、ぼくだって〝永遠〟に加担している。ぼくの子供もきっと、そうなっていく。
<永遠に>11.1
No.4
背を向けることをただ1人おぼえないぼく。全てがきらめいて、全てが楽しい。日差しはただあたたかい。日向ぼっこにさいてきだとおもう。みんなは目を細めてしかめっ面だ。
ぼく、なにかおかしなことをしたのかな。みんなが嫌な目でこっちを見るんだ。コソコソってしてないで、なにか言いたいことがあれば言えばいいのに。
じゃんぷじゃんぷするのがすきなだけだよ。くれよんでまるを描いてその上に線をかきたすと、くものす描いてるの?って言われる。たしかにそう見えるなあ。ぼくは何を書いてるんだろう。
ぼくはこの白い建物が嫌なところだって分かるよ。ちゅうしゃを打ってくる場所だろ?かーさんは「あなたはどこか悪いのよ」って、ひっしな顔してぼくを見上げる。かーさんについてったら、脳って字が見えてきた。
かーさんはしんぱいしすぎさ。だからかーさんが嫌いなのよ。おとうさんが言うにはひすてりっくになりやすい、って。もっとわかりやすく言っておくれよ。
あの白い建物からもらったおくすりなんてのみたくないよ。苦いやつだろ?こなの、アイスといっしょに食べるやつだ。あれ、なんだかラムネみたいだ。
おくすりをのむと、ぼくがぼくじゃないみたいになる。ぼくの両手がぶるぶるしてる。たいちょうは悪くなったりするけど、ぼんやりしてた頭がげんきになってくみたいだ。
僕は作り話が好きだ。前の僕が見えてた世界を、文字に書き起す。僕の理想郷を、まだ手離したくない。でも絶対に戻りたくはない。まだ時々、思い出しては手が震える。でも、もうぼくはだいじょうぶだよ。
<理想郷>(ユートピア)11.1
No.3
ぼくの指先はあかいろに。
きみからの最後のおくりもの。
切ったばかりの綺麗なままで。
ぼくの爪はきみのおきにいり。
〈別れ際〉2022.9/28
No.2
そんなことはなかった。理不尽だと分かっていながら、気づいてほしいという言葉で心がいっぱいだった。転んでは振り返りを繰り返して。自分の体重で、膝についた砂の跡が痛い。
今日は違かった。
桜色の小さな貝殻を拾った。白いような虹色のような内側に耳をあてた。
<貝殻>2022.9/5
No.1