時間は平等だ。
でもその平等は決して優しさとかじゃなくて。
苦しんでようが、楽しんでようが、
全ての人間に平等に届く。
迎えたくもない明日は迫る。
もし明日が誕生日の人なら、
喜んで明日を受け入れるけれど。
今日はいつも今日のまま。
だけど今日は今でしかないから。
やがて遠い過去になるんだ。
私は、いず子は明日を迎えるのが嫌だけどね。
まあ、あと4時間くらいで来るんだからさ。
今日も今日にさよならを。
<今日にさよなら>2024.2/18
No.24
「なあ」
「うん」
「絵描いてないでさ」
「できた、ドフラミンゴの模写」
「なんでワンピース? てか来月卒業じゃん」
「確かに、もうそんな時期か。まあ先々月くらいに大学の試験受けたけど」
「もうすぐだな」
「ああ。意外と寂しくない」
「そういう奴が一番卒業式で泣くんだよな」
「俺小学校も中学も泣かなかったけど」
「幼稚園で泣いてなかったかお前?」
「忘れろ」
「寂しくないとか言ったって、結局全員寂しい気分になるんだよどうせ」
「……そういうもんか」
「ま、あと一ヶ月よろ〜」
「なに急に」
「お前は進学だけど俺実家つぐんだ。一足先に金稼ぐわ」
「なんだろう、全然悔しくない。お前んちの店結構儲かってるっぽいけど。あんま羨ましくない」
「ああん? なんだと、お前この!」
「やめろっ! くそっ」
<誰もがみんな>2024/2.10
No.23
世界が眠っている。
家族は眠り、自分だけがここにいて、
この時間は自分だけが
独り占めできるような。
実際はただの夜更かしでしかないのかもしれない。
最近よく行くカラオケ店で、
声の高い高校生らしき男の子が働いている。
始めたてなのか、全力で、微笑ましい。
ああ、自分もそこで働いていたんだった。
シフトが被らないというだけで
さらに距離は遠く他人からの視点になってしまう。
ここはネカフェ。
隣の部屋で、
カップルのイチャイチャする声がして苛つく。
壁をドン、となぐった。
<ミッドナイト>2024.1/26
No.22
創作。
人の心。どうしても生きてる限りは僕の中で息している。人は成長するにつれて苦悩や葛藤にまみれ、選択肢を一度誤っただけでその名に大きな傷がつく。難しい生き物だ。
やっぱり、忘れたくても忘れられない。人として生き人としてしぬ。結局はその繰り返しのはずなのに。少しの幸福を感じる度、寿命が伸びる気がして、ああまだ生きられるなと安心してしまう。
<忘れたくても忘れられない>2023/10.17
No.21
短編小説。
白と黒だけがそこにあった。音楽一家に生まれた君の家には防音室があって、その中心には立派なグランドピアノがあった。
昼間は彼女の母が窓を開けて風に当たりながら弾くという。でも私は夜中に彼女だけのために会いに来るし、彼女は夜にしかピアノを弾かなくて、夜にしか会わないものだから、残念ながらその体験はできていないのだけれど。
「どうだった?」と彼女は演奏が終わった後に、少し心配な顔で私に訊く。
白と黒だけの鍵盤。君も白い肌に黒のパーカー。どこか物悲しい音を奏でる君は、まるでピアノの妖精や付喪神みたいだ。
ある日にいつものように彼女に会いに行くと、彼女はあまり見慣れないパジャマ姿でピアノに顔を突っ伏していた。私がそれに慌てふためいたのは、彼女が大量に飲んだであろう睡眠薬がそこら中に瓶から落ちて散らばっていたからである。
私はどうにかしようと防音室から飛び出て、音を立てて彼女の家族を起こす。彼女の母親が少し怯えた様子で二階から降りてくる。咄嗟に私は身を隠す。すると扉が開いて電気がついている防音室に気づき、忍び足で中を覗く。
その後のことはあまり語りたくない。だいたい想像はつくと思うが、救急車が眩しい赤い光と大きなサイレン音を出してやってきた。
気を失った彼女がどうなったのかは分からない。でも次の日の夜に彼女は防音室に来なかった。当然だろう。分かっていたのに私は来てしまった。
グランドピアノに座って窓の外を眺める。彼女の音色が無い。もの足りない。私は適当に鍵盤を押してみたりする。昔の感覚は忘れてしまったので、もう童謡くらいしか弾けない。
だんだん思い出してきて、カノンの最初とかを弾くことができた。それでも彼女には遠く及ばない。
「寂しい」
誰もいない防音室で、それだけが私の心を満たす。
*
私は、昔からピアノを弾いてきた。始めたきっかけは、母が自分が叶えられなかったピアニストという夢を子供に託したい、というなんとも身勝手な理由だった。
自分の心も体も成長していくうちに、ただ楽しいだけのピアノじゃなくなっていった。母からのプレッシャーが重く肩にのしかかってくるからだ。
自然とピアノが嫌いになっていった。
これで最後にしようという高校生の時のピアノコンクール出場で、観客としてその場にいたのが現在の夫だ。
「君の音色は繊細で美しい。ピアノの音色と同じように君は美しい」と、なんともキザなセリフと共にプロポーズされた。
数年ほどかかったが、自分のピアノへの情熱が復活した。もちろん夫のおかげだ。夫は優しい。暴言を吐くし、時々手を出してくるが。とても優しい。うちは他の家と変わらない温かい家庭だ。
子宝にも恵まれた。とても可愛い娘だ。私の母のように強要はしていないが、娘は自然とピアノの道を歩いている。最近では夜にピアノを弾いているようだ。
言い忘れていた。母親の他に、私がピアノを嫌いになった理由。それは、同じくピアノをやっていた二歳年上の姉への劣等感があったからだ。いつでも私の一歩先を歩いていた。背中に指先がギリギリちょんとつくほどの距離にいて、もどかしかった。
私が高校一年生、姉が高校三年の時。姉は大学受験に向けて勉強漬けの毎日だった。それでも何故かピアノへの執着とも言えるほどの情熱は消えず、毎日弾いていた。当然、姉の睡眠時間は削れていく。
その情熱が羨ましかった。私にはそれほどの強いピアノへの思いは無かったから。
そんな中、姉は大学の筆記試験の帰りに交通事故にあった。即〇だったそうだ。ろくに寝ない日々が続き、迫り来るトラックに気がつかなかったのだろう。
逃げるなよ。私はまだお姉に手が届いてないのに。私が勝つところ見せてないのに。ああ、この劣等感が永遠になってしまう。
*
彼女が居なくなって数日。私は暇にしていた。時々、透けた手で思い出しながらピアノを弾いたりするけれど。私が使っていたピアノは十年以上前と変わらぬままここにある。
私は十八歳であの世の者となった幽霊。そしてこのピアノの付喪神と合わさった存在。何故か夜にだけ姿が見えるらしい。
気まずくて妹とは顔を合わせられないけど、可愛い姪っ子の「彼女」とは仲良くしている。妹の夫(義弟)は、家族を大切に思っていない嫌な奴なのでいつか懲らしめようと思っている。
ガチャ、っと防音室のドアが開く。すると痩せこけた彼女と、それを支える私の妹がいた。妹は丸い目で私を見たまま固まっている。一瞬心臓が飛び出るかと思ったけど、私は冷静を装って迎え入れる。
「おかえりなさい。ピアノ弾いてく?」
〈君の奏でる音楽〉2023/8.13
No.20
書いてたら自然と長くなって
途中でお題変わっちゃって遅れました。
昨日のお題ですが許してください。
書き終わってから時計見て驚いたんだけど、
私は40分以上ずっと集中して
ぶっ続けで書いてたらしいです。