お題『冬の始まり』
目の前を、白いふわふわした綿毛が飛ぶ。
あ、ゆき、と言いかけて、やめた。雪ではなくて、それは雪虫だったからだ。
最近、夜はぞわわ、と肌に鳥肌が立つ。
先に部屋を温めておかないと、布団が冷たい。いやだ。しかも、朝起きた時にタイマーで暖房が止まっていると、鼻先がひんやりしている。つらい。全てのやる気を削がれる。
指先もすぐに冷たくなる。
しかし良い事もあって、猫が我が物顔で傍に来るという点では、まあ許してやっても良いかなと思う。
それに、冷たい空気を纏った星空が綺麗だ。四季折々の星空は好きだが、冬ほど綺麗に見られる時期を知らない。ぱちぱち、弾けるような瞬きをする。
加えて、温かいものが美味しい。冷えた手を暖めるために、お気に入りのカップに注いだミルクティーは、蜂蜜が溶け込んでいて、幸福をくれる。
庭に咲いている椿の花に、雪が積もるところも好きだ。何だかいい。何がいいのかは分からないが、何故か好きだ。
あと、塀の縁にもっちりした雪が見えた時も、嬉しくなる。なんだかあれはカワイイ。
これからが楽しみになってきた。はやくこないかな、なんて、ひとりでにやにやした。
お題「終わらせないで」
ぼんやりと、祖父が刀を眺めるのを横から見ていた。刀身がキラキラしていて、縁が白い結露が顔を出して、窓から暗い夜の雪景色を眺めるような冷たさと、輝き。
これが、人を殺せる道具。
ぞわりと背筋に霜が降りたような感覚がした。これを肌に滑らせれば、ぷくりと血が出て、ズキズキと痛み始める。
でも、どこか、語りかけられていた気がした。
私はお前を傷つけたりしない。
私は綺麗だろう。
お前も私をよく見てみると善い。
「見てみるかい?」
タイミングがよく刀鍛冶の彼は私にそう問うから、思わずたじたじしながら「いいんですか」と聞けば、私にハンカチと柄を差し出してきた。
確かに、きらきらかがいて、きちんと向き合ったら、月夜に見上げた、雲の流れる空のようだった。綺麗だ。
でも、祖父が見ていた時よりも何故か輝きがない、気がする。故に、祖父に返した。
「もういいのか?」
「うん。なんか、刀は私じゃない方がいいみたい。」
頷きながら、その手の中に戻す。すると、やはりその手の中のほうが綺麗に見えた。
その刀はきっと、祖父の手の中でしか、ああは輝かないのだろう。
それを終わらせないでほしかった。
お題『愛情』
愛はきっと、知ることだ。
自分のことを知って欲しいと思うのは愛で、相手を知りたいと思うことは、愛だと思う。
そして、それに情というスパイスがかかるから、仕方の無い人だ、と思っても、離れがたく、まだ知りたくなってしまう、知ってしまうものなんじゃないかと、私は思う。
そして、知り尽くした気になると、「もういい、十分だ」「聞きたくない」という。
十分あなたの事を知った。もう知りたくない。聞きたくない。
だから、愛は知ることだと思う。
あなたの事がまだ、知りたい。
もっと聞かせて欲しい。
どんな味が好きで、どんな言葉が好きなのか。
お題『微熱』
なんだか朝から体調が悪かった。少し頭が痛かった。鼻水が出ていた。
でも、仕事、誰も代われないしな。なんて思いながら、レジに立っていた。
ズキズキ痛む頭を感じながら、決まり文句を言う。
少し、ぼーっとする。
ぼんやりしてる私に、いつものお客さんはそんなのお構い無しに話しかけてくる。必死に言葉を選びながら、会話を交わす。
あと何時間で終わる?
くらくらする。
早く、終わらないかな。
お題『太陽の下で』
寝転がって、お昼寝したら、気持ちがいいだろうな。
そうしたら、明日、素直にごめんなさいは言えるだろうか。