「あなたの人生です、好きなように生きていいのですよ」
そう言われると、困ってしまう。
私はアイデンティティがない、それは出口のない迷路を彷徨っているようなもの。
「では、好きなものはありますか?」
どの程度のことなのか?
好きなものはあるが、ライフワークと呼べない。
ただ私はその世界に潜って、そこの住人でいたいのかもしれない。
「充実した時間を過ごせていますね」
本当にそうだろうか?
自分にとって価値がある時間は、他者にとって興味もなく、無駄であるかもしれない。
「あなたの人生ですよ、あなた以外のことは一度忘れましょう」
忘れていいのか、考えたことがなかった。
大したことではない、でも私にとっては大切なこと。
このまま守り続けて、育てられるだろうか。
「その気持ちを忘れないで下さいね、いまのあなたはとても素敵ですよ」
私の心の何かが溶け出す、それとと同時に頬に伝うものを感じた。
『つまらないことでも』
今まで自分が生きてきたこと、やってきたこと。
結局、何だったんだろう……
自分を見つめ直すには、いい機会だ。
白い世界は、何も答えてくれないけど。
『病室』
あともう少し……このまま……
身体も重い……身動きも取れない……
暑い……苦しい……誰かが乗っているみたいだ……
えっ、誰?目を開けたくない……怖すぎる……
願いも虚しく、目が冷めてしまう。こわごわとそっと瞼を開ける。
そして目に飛び込んできたのは、まるまると太った愛猫の顔であった。
「重すぎる……胸の上に寝るのはやめて」
『目が覚めるまでに』
お気に入りの本を持ち、ふらりと電車に乗り、車窓の景色を眺めよう。
そして海が見える駅で降り、波音が聴こえるオープンテラスのあるカフェへと。
コーヒーを片手に、潮騒と海の薫りを楽しむ休日。
なんて贅沢だろうか。
『明日、もし晴れるなら』
「なにを考えているかわからないよね」
嘲笑混じりに、こちらをちらりと見下しながら、クラスメイトに言われた。
別に大したことを考えてないけど、他人の粗探しをしているアナタ達よりはマシだ。
「反応ないから、つまらない」
私にはどこが面白いのかわからない、他人の悪口の話なんて。
この小さな教室という世界が、全てでない。
ここに居場所を求めなくても、拘らなくても。
だから、外へ自分の居場所を探した。
大人になっても、人間はあまり変わらない生き物らしい。
馬鹿らしいことで、無理に他人に合わせる必要なんてない。
自分らしく息ができる場所は、いまだによくわからないけど。
誰かといて苦しくなるより、このまま一人でいた方がずっといい。
私は、いま幸せです……
『だから、一人でいたい』
その美しい瞳で何を見ているのか。
この世界のあるがままを、素直に受け止めてほしいと。
ただ、そう願うのもまた強欲だろうか。
あなたは、何にも縛られない。
『澄んだ瞳』