#秋恋
私は当時、陸上に夢中だった。
性別の差なんて考えていなかった。
とにかく、誰かに勝つことがとても嬉しくて。
記録もどんどん伸びていくし、練習も苦じゃなかった。
しかし、時を重ねていくにつれ、記録が伸びなくなっていった。
女の子が誰しも通る道。
“大人”になった証拠。
好敵手の彼にも、どんどん差を詰められていく。
私は不安と焦りでいっぱいになった。
体も重いし、足が思うようについてきてくれない。
私は彼のことが好きだった。
でも同時に、羨ましさもあった。
私も、男に生まれていたらよかったのに。
彼と、対等に、実力を正面からぶつけられたのに。
そんな思いが頭の中をぐるぐると回る。
……でも、そもそもなんで私は陸上をやっているんだ?
大会に出たいわけでもない。一位になりたいわけでもない。どうして私は、そんなに陸上にこだわるんだ?
ふとそう思った。
今までのことが、すべて崩れ落ちた音がした。
──私は、その場から逃げた。
私の初恋は、赤黄に染まった木の葉とともに散っていった。
秋恋
・秋という季節に始まる恋、または秋に抱く恋の感情。
・秋の情景や雰囲気と結びついた恋。
・秋の切なさやセンチメンタリズムを伴う恋。
#時計の針が重なって
君と過ごす時間は
人生の中でほんの少しの時間だけど
君と過ごした時間はきっと無駄じゃない
すべてのことは覚えていないけれど
君の存在はこれからも私の支えになるだろう
#雨の香り、涙の跡
本当に つらいときは
涙も 出なくなる
学校に行かなくなって、1年程経ったある日
朝、おきて 階段をおりているとき
ふと、思った。
──なんで生きてるんだろう
自分でも、驚いた。
こんなこと、今までなかった。
かなしいとか、つらいとか、なんとも思わず、ふと頭に浮かんだ言葉。
これは、やばいと思った。
電気をつけなくても、明るいリビング
見なくてもわかる 今日は晴天の日
晴れの日は キライだった
今の自分とは比べ物にならないくらい 輝いているから
やさしいから あたたかいから
せめて、今だけは……雨で私を誤魔化して
私を、暗くて狭い檻から出して
つらいはずなのに、かなしいはずなのに泣けない私を
#記憶の地図
はっきり覚えていなくても
断片として 確かに残っている。
私の、宝箱のなかに。
#マグカップ
早朝、たき火であったまりながら
マグカップを片手に、朝日を拝む
木々に囲まれ、鳥たちの囀りを聴きながら珈琲を啜る
このとき以上に、安らかで、静かで、癒されるときはあるだろうか