今、目が覚めると何かと不都合だから、
おやすみしたままでいよう。
明日が来るまで待っていよう。
待っていてそして、まだ来なかったなら
ううん、いっそ明日なんて来なくていいのに。
【目が覚めると】
子供の頃は無邪気に遊ぶことができた。
純粋でまだ幼かった私には、まだ難しいことはよく分からなかった。
やりたいことができた。とても楽しかった。
人に甘えることができた。簡単に想いをぶつけることができた。
大人になった今じゃ、たくさんのことを知ってしまった。
純粋さと無邪気さを失ってしまった。
簡単に人に甘える事も出来なくなってしまった。
あの頃はとても楽しかった。何にも考えずに過ごすことが出来たのだから。
大人になりたくない、と一時期思っていた。
その前に死んでしまおうかとも考えていた。
だが私は大人になってしまった。
今は大人になって良かったと感じることは無いが、
いつかそう思えるような日がくればいいなと願っている。
【子供の頃は】
「……最悪だ。」
寝ている私の隣で彼が力無く呟いた。
眠気で意識が混濁する中薄目を開けると彼は気怠げそうにガシガシと頭をかいていた。腹痛のせいで私は彼に言葉をかけられなかった。
彼は私を見下ろす形で立っていた。顔色が悪く眉間にしわを寄せて仁王立ちで私を見つめている。
私、何かやらかしたかしら……。
彼の足元には中身の無い缶ビールと、大きな水溜まり。
「救急車……、いや、まずいか。」
何をごにょごにょ言っているのだろう。聴こえない……。
…なんだか水溜まりがやけに紅い気がする。でもたぶん気のせい。
それに彼が手に持っているピカピカするのは包丁なんかじゃないのだろう
動かない私を他所に、彼は床に広がる大きな血溜まりを拭き始めた。
【最悪】
梅雨って気分が落ちこんだり、何となくどんよりするよね。
雨や湿気のせいで髪はまとまらないし、
体調も崩しやすくなるし。
でも雨の音は心地よくて、私を落ち着かせてくれる。
それに、色とりどりの彩やかな紫陽花も魅せてくれる。
良いところもあるから、この季節を少しだけ好きになれたんだと思う。
【梅雨】
あの頃の私はあまりにも無垢で世間知らずで人の痛みに気づけなかった。
もっと早く気づいていたら、なんて。
何も知らずにいるのは怖い。自分だけが置いてかれるような気がする。
周りは何も教えてくれない。自分だけが教えてくれる。
純粋無垢というものはせいぜい小さな子供だけが使える特権だ。
残念ながら大人には通用しない。
【無垢】